著者
大坪 拓朗 金子 亮太 渡邊 昌宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1310, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年,投球障害に体幹の機能が重要であることは多く報告されている。しかし,投球動作時の体幹回旋運動の筋活動については報告されておらず,体幹筋活動が肩関節に及ぼす影響については不明な点が多い。本研究の目的は,投球動作時の体幹筋と肩甲骨周囲筋の筋活動の関連性を明らかにすることである。【方法】対象は,中学及び高校時代に野球部に所属しており,肩関節に疼痛既往の無い男子大学生10名(年齢20.4±1.36歳,投球側右腕)とした。筋活動は表面筋電図にて,右僧帽筋上部,右僧帽筋中部,右僧帽筋下部,右前鋸筋,右棘下筋,右外腹斜筋,左内腹斜筋/腹横筋の筋活動を計測した。投球は,右脚より18.44m先に設置されたネットを目標とした。ボールは硬球を使用し球種は直球として20秒間隔でノーワインドアップ投法にて全力投球を7回計測した。測定処理は,各電極から得られた電気信号をサンプリング周波数1000Hzでデジタル変換し,パーソナルコンピュータへ記録した。筋活動量を正規化するため各筋の最大随意収縮(MVC)の測定を行い,root mean square(RMS)を算出し最大筋活動量とした。各投球動作において,光刺激の時点を0msと定め,早期コッキング期(early cocking;EC),後期コッキング期(late cocking;LC),加速期(acceleration;ACC),フォロースルー期(follow through;FT)のRMSを算出し,%MVCを用いて筋活動量の比較を行った。解析には1回目と7回目を除いた5回分の投球動作平均値を用い,各フェイズでの筋活動,および各筋のフェイズ間での比較をおこなうため多重比較検定をおこなった。有意水準は5%とした。【結果】各フェイズでの筋活動比較において,LCでは腹直筋に比べ,外腹斜筋,内腹斜筋/腹横筋が,ACCでは腹直筋に比べ,外腹斜筋,前鋸筋が有意に高かった。FTでは腹直筋に比べ棘下筋が有意に高かった。各筋のフェイズ間での比較では,外腹斜筋はECよりもLCの方が有意に高く,僧帽筋中部はECよりもACC,僧帽筋下部ではACよりもLCの方が有意に高かった。さらに棘下筋ではECに比べACC,FTで有意に高かった。【考察】コッキング期での体幹回旋角度の減少が,肩関節外転時に必要な肩甲骨運動の制限及び運動エネルギー伝達の低下を及ぼし,肩関節への負荷が増大すると報告されている。本研究での対象者は,野球経験者であるが肩関節の疼痛既往がない。本研究の結果から,LCでの外腹斜筋,内腹斜筋/腹横筋の筋活動により体幹回旋運動と体幹の安定が得られ,その後ACCにて僧帽筋,前鋸筋の筋活動により肩甲骨の運動を促すことで,肩関節への負荷が軽減されると推察された。今回の研究では,肩関節に加わる力学的ストレスに関して不明な点が多い。今後は,被験筋を増やし,動作解析装置を用いて肩関節に加わるストレスを詳細にしていく必要がある。
著者
金子 亮太
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
no.12, pp.86-102, 2014-03-01

人と人との関係を意識せずにはいられない。今日のこころの病とは他者との関係そのものの失調であるとさえ言える。河合(2004)は、現代人の病理が“関係性喪失の病”として現れることを指摘しており、またこの関係性の喪失は神話の喪失に他ならないとする。ここで言う「関係性」とは、単に対人的な関係を示すのではなく、個人の根源的な帰属意識やアイデンティティの基盤となるものであり、現代においてはそれが希薄になっているとの指摘である。また、神話は無意識的な経験知の体系として帰属意識やアイデンティティの根元たるコミュニティを形成すると考える。ここから、関係性が希薄になることと神話が失われることは表裏一体であるといえる。帰属意識やアイデンティティを形成するコミュニティが解体したことで、他者との結びつきも必然的に衰退したのである。\ところで、Mauss(1925/2008)は古代的社会における贈与が互恵的な関係を生み出すことを記述している。そこでは贈与が他者との関係性を結ぶものであったと考えられる。贈与とは、実在性やエネルギーの受け渡しであり、またその関係性そのものである。贈与によって、〈自〉と〈他〉は向かい合い、そこには体験やイメージが生み出され、〈自〉の主体感覚が生成されていく。また、それは同時に〈自〉/〈他〉の境界を再定義することでもある。〈自〉という主体が〈他〉という未知性・異質性と交わることで、ひるがえって〈自〉の同一性再認識することでもある。\贈与によって〈自〉は再構成され新たな可能性に開かれる。しかし、これは同時に〈他〉という未知性・異質性と交わることで主体はコントロールを失い、〈自〉が〈傷〉つき〈死〉にさえ直面する危機的な体験でもある。古代的文化においては、神話は経験知の体系として、コミュニティへの帰属意識として、このような〈傷〉つきにさえ意義を与えるものであったといえる。しかし、神話の失われた現代では、〈自〉の再構成する過程の中で主体は不可避に〈傷〉を負うこととなる。関係性の失われた現代において、心理臨床はこの〈傷〉つきの問題に向かい合わねばならない。\ In this paper, the relationships arise out of gift-giving. In modern clinical psychology, everything is associated with the relationships between people. It can be said that mental illness is a disorder in relationships with others.\ is has been indicated in modern pathology as a “disease of loss of relationships” by Kawai (2004). He also considers the loss of relationships as a counterpart to the loss of myth. “Relationships” signi es not only relationships with others, but also the primitive foundation of a sense of belonging or identi cation. He points out that these foundations have weakened in modern times. And It can be said that myths as the unconscious system of empirical knowledge can also make communities which is the root of a sense of belonging or identi cation. So the feebleness of relationships and loss of myths are referring to the same thing. And connection with others also inevitably declines.\ Incidentally, Mauss(1925/2008) has pointed out that the gift in ancient society produces a mutually bene cial relationship. e gift in ancient times is considered as a thing that creates relationships with others. e gift is commutation of substantiality or energy and the relationship itself. e gift is intended to match opposite <self> as subject to an <other>, then <self> obtains subjective senses by produced experiences or images. At the same time, it rede nes the borderline between <self> and <other>, and contributes to recognitions of identity of <self> concerned with <other> as strangeness or heterogeneousness.\ e gift is not only the experience of new possibility by <self> rede ning, but also critical experience of the confrontation of <pain> or <death> of <self>, through the subject’s losing controls when involved with <other>. In ancient culture, myths as the empirical knowledge or sense of belonging to community give signi cance to these <pain>. But, in modern age, the loss of myths, leaves the subject vulnerable to <pain> in the process of <self> reorganization. So in modern times, in clinical psychology the problem of <pain> has to be confronted when dealing with the loss of relationships.