著者
金子 和広 冨士田 裕子 横地 穣 加藤 ゆき恵 井上 京
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.31-41, 2022 (Released:2022-06-28)
参考文献数
38

1. 北海道新篠津村の石狩泥炭地内に残存する小規模な湿地では,1960年代以前に掘削された排水路の影響で乾燥化が進行しており,保全のために2006年から毎年,5月から8月の期間に湿地への灌漑用水の導水が行われている.導水が与えた影響を評価するため,導水以前,導水初年,導水開始13年後の地下水位と植生を比較検討した.2. 導水期間中の地下水位は,導水初年・13年後においていずれの地点でも導水以前から平均で30 cm程度上昇した.地下水位の変動パターンは地形によって異なり,窪地では導水期間中に水位が湛水状態を保った一方,窪地以外の地下水位は最高でも地表面から20 cm以下だった.3. 導水開始13年後の植生について,窪地では草本層でヨシを主とする湿生在来種が優占し,導水以前に出現した非湿生外来種のオオアワダチソウが消滅した.窪地以外では,高木層で優占したシラカンバの大半が枯死した場所があったものの,草本層に占める湿生種の割合は50%未満で窪地よりも低く,湿地の乾燥化後に侵入したと考えられるワラビやオオアワダチソウが多くの場所で増加した.4. これらの結果から,地形・地下水位・植生は密接に関連することが示された.窪地では導水がもたらす湛水状態が湿生植物の優占する群落の維持や復元に十分効果的であったが,窪地以外での地下水位上昇は,湿地保全の観点からは十分な水準に達していないと結論付けられた.