著者
斎藤 清 金子 幸雄
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.101-108, 1975-04-30
被引用文献数
1

(1) ボケ類にひろくみられる不結実性を明らかにして今後の育種上の知見をうるために市販品種15点および野生種クサポケを用い,数年にわたってフレーム内で素焼鉢作りとして,花粉および胚のう形成について若干の細胞学的観察をおこなった。 (2)開花時期および茎状のちがいによって供試材料を寒咲型(6点)・春咲型(6点)およびクサボケとその類似型(4)点とに区別し,それぞれの根端における染色体数を調査したが,すべて2n=34の二倍体であることが確認された。 (3)花粉母細胞にあらわれた減数分裂像をみると,IMにおいて17_<II>が規則正しく形成される緋の御旗や東洋錦などがみられた反面,黒光・緋赤寒ぼけ・長寿楽などではかなり混乱した染色体対合が観察され,1価や4価染色体も多く現われていた。つづくIIMにおいても後者のものでは異常な分裂が顕著におこっており,四分子期にも奇形の二〜三分子,さらに五〜九分子にいたるものが散見された。 (4) したがって,開花時の充実花粉粒率も前記の異常分裂の傾向と大むね軌を一にしてあらわれており,黒光や長寿楽ではほとんど健全粒の形成がみられなかった。一方舞妓・浪花錦・長寿梅(白花)のようにきわめて良好な健全粒率を示すものもあったが,それらでも完全な果実の着生がみられなかった。 (5)数点の品種について解剖的に観察された胚のう形成については,一般に開花2日前の完全花で比較的多くの健全な卵装置をもつ胚のうが完成しており,その後受粉受精をうけたか否かは不明であるが,約2週間はそのままの状態で存在し,その後しだいに退化崩壊がはじまり,ついに原胚の発生を示す標本をうることはできなかった。一方,クサポケにおけるわずかの標本では受精によって生じた原胚がしだいに細胞分裂をはじめ,開花後2〜3週間目でようやく小さな棍棒状を呈するものが観察された。 (6) ボケ類に普通にあらわれる不結実の原因として,品種成立の過程にからんでいる雑種性による遺伝的な配偶体および接合体の致死,自家および他家不和合現象の存在,さらに限界的な低温などによる環境的要素などが組みあわされているものと考察された。