著者
伊東 秀幸 大西 守 田中 英樹 桑原 寛 伊藤 真人 大塚 俊弘 野口 正行 金田一 正史 斎藤 秀一 山本 賢 呉 恩恵
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.1-31, 2016-03

精神障害者支援に関して,市町村は精神障害者に対して身近な地域できめ細かく支援していく役割があり,保健所はその市町村に対して専門性や広域性が必要な事項について支援していく役割がある。また,精神保健福祉センターは,保健所,市町村に対する技術援助の役割を担っている。以上のように各機関は,それぞれ異なる役割を期待されているが,精神保健福祉法の改正や障害者自立支援法の施行などもあり,精神保健福祉行政を取り巻く環境は大きく変化している。そのため,保健所,市町村そして精神保健福祉センターによる精神障害者に対する支援の現状を把握し,それぞれの機関の果たすべき役割について見直していくことが重要である。そこで本研究では,厚生労働省平成26 年度障害者総合福祉推進事業「保健所及び市町村における精神障害者支援に関する全国調査」の結果から,保健所及び人口30 万人未満の市町村のデータを抽出し,精神障害者支援に関する,保健所と市町村の役割とその現状について考察を試みた。調査の結果から,指定都市型保健所,中核市型保健所や10 万人未満,30 万人未満の市町村においては,精神障害者支援に関する様々な取り組みがされているのに対し,都道府県型保健所ではこれまでの事業を中心に実施されている現状が分かった。これは,都道府県型保健所と市町村との間で精神障害者支援に関する役割分担が進んでいることからくることと推測される。30 万人未満の市町村では,精神障害者支援に関して,これまでの都道府県中心から市町村主体と変わっているが,その実施にあたり様々な困難を抱えており,これからも都道府県(保健所)等のバックアップが必要と考えている。そのための具体的な対策としては,保健所や精神保健福祉センターによるバックアップ体制を強化するとしている。一方,保健所は,今後重要となる精神保健福祉業務の体制については,管内市町村との連携強化を考えているという現状が把握できた。精神保健福祉センターに対する調査では,精神保健福祉センターの業務のうち保健所への技術援助は積極的に取り組む必要があるとしている。以上のことから,今後,保健所から管轄市町村に対して,これまで以上に技術援助や連携を進めていくことが必要であり,精神保健福祉センターからの技術支援は,保健所はもとより直接的に市町村にも積極的に進めることが課題であると思われる。また,「保健所及び市町村における精神保健福祉業務運営要領」は,平成18 年に発出以来10 年が経過していることから,現状にあった改訂の必要性があると思われる。