- 著者
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森近 貴幸
秋田 直人
浪尾 美智子
金谷 佳和
金谷 親好
- 出版者
- 公益社団法人日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学 (ISSN:02893770)
- 巻号頁・発行日
- vol.35, no.2, 2008-04-20
【目的】膝前十字靭帯(以下ACL)再建術後の競技復帰を目指したリハビリテーションでは、再建術からの時期、筋力などを考慮しながら運動強度を増加させてゆく効率的なプログラム構築が要求されている。また、早期復帰を目指し、ACLに負担をかけない筋力増強や再断裂予防のための取り組みも重要である。今回ACL再建術後の高校サッカー競技選手に対して、クリティカルシンキングによるプログラム構築を行い、アプローチとして動きによる気づきを取り入れた症例で効果的な知見が得られたので考察を交え以下に報告する。<BR>【方法】対象は試合中に受傷し、ACL再建術を施行した高校サッカー競技選手。治療プログラムにおいてクリティカルシンキングを用いて、筋力増強とともに基本的動作、サッカー動作、補助トレーニングをMECE(モレなく、ダブりなく)で段階的に行った。また、フェルデンクライス・メソッドによる動きによる気づき(以下ATM)を補助トレーニングの中に取り入れ、自覚的な運動能力の変化を評価した。ATMは、関節を滑らかに動かすレッスンなどで構成されており、1日に1プロセスをゆっくりと心地よい自動運動で行なった。<BR>【結果】クリティカルシンキングを用いたプログラム構築では、各時期に応じたメニューを提供することができ、MECEを活かしてトレーニングの無駄を省けた。また、治療への積極的な参加を促すことが出来た。ATMを取り入れてから、「余分な力が入らなくなった」「自分の身体に対する意識が変わった」という自覚的変化が現れ、動作が滑らかになった。トレーニングの段階が進むにつれサッカー動作の質が向上し、「ボールを扱う感じが違う」「ドリブルが楽になった」という感想と、「ボールタッチが柔らかくなった」という客観的意見が得られた。<BR>【考察】クリティカルシンキングを用いたことにより、各段階で必要な筋力や動きを明確にすることができた。この問題点を選手自身が認識することで、効果や取り組む姿勢に変化が現れた一因になったと考えられる。また、MECEにてプログラムのモレ、ダブりをなくしたことで時間的な効率が上がり、早期復帰につながるのではないかと考えられる。アプローチでは、フェルデンクライス・メソッドによるATMを補助トレーニングの中にレッスンとして早期から取り入れたことで、動きを通して自分の身体に対する気づきを学習することができた。これにより、走ったり、ボールを扱ったりする時期が来る前に神経系による身体の準備が完了していたため、サッカー動作トレーニングへの移行がスムーズに行なえた。さらに、受傷前の習慣的な動作が改善されたため、動作のレパートリーが豊富になり再断裂の予防とパフォーマンス向上につながったと考えられる。<BR>