著者
浪尾 美智子 守安 由香 小川 円 木村 英輝 金谷 親好 森近 貴幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0714, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】足底は手掌部よりも知覚神経分布が優勢で、姿勢制御に影響を及ぼすと言われている。今回、感覚障害を呈した脳卒中片麻痺患者の足底感覚に着目したアプローチを行った結果、坐位姿勢に変化がみられたので報告する。【対象】左右頭頂葉と左放線冠領域の脳梗塞両片麻痺患者の女性。触覚は右足底重度鈍麻、左足底中等度鈍麻で四肢重度鈍麻、運動覚は全て重度鈍麻であった。ラップボードを用いることで車椅子坐位を保持していた。また、端坐位保持は不可能で全介助であった。食事動作では坐位が安定しておらずリーチ動作が困難であった為、ほぼ全介助であった。【方法】端坐位の安定化を図るため机上に両前腕部を置き、足底は床面に接地させた。より多くの刺激を与える為に、感覚受容器が多数存在する母趾に様々な素材の板を接触させ刺激に変化を加えた。深部感覚受容器を刺激するには圧変化や関節運動が関与してくる為、足底で床面を押す寝返り動作を行った。また背臥位にて足底と壁の間に枕やボールを置き、壁に対して垂直方向に、足底で踏むことを繰り返し行った。【結果】触覚は右足底中等度鈍麻、左足底軽度鈍麻となり、運動覚は足、膝関節は中等度鈍麻となった。坐位姿勢は右足底全面接地が行えず、左下肢で床面を押すため骨盤は後傾し、右殿部後方に荷重していた。アプローチ後は右足底全面接地が可能となり、左下肢で床面を押さなくなった為、左殿部にも荷重が行えるようになった。また机上に両前腕部を置き坐位を保っていたが、アプローチ後は端坐位保持が1分程度可能となった。車椅子坐位は左下肢でフットプレートを押すため骨盤が右に後退し、殿部が前方に滑っていたが、アプローチ後はフットプレートを押す動作が見られなくなり、坐面上に殿部を保持することが可能となった。また坐位が安定してきたため、リーチ動作が行いやすくなり、食事動作は中等度介助になった。【考察】足底に様々な素材の板を接触させ刺激に変化を与えたことで、能動的感覚受容器が活性化され、足底感覚が改善し、右足底全面接地が可能となったと考えられる。寝返り動作や足底で枕やボールに圧をかけることで、足底の圧受容器が刺激され深部感覚が改善したと考えられる。足底からの感覚情報が増加し、自己のボディーイメージが確立され始めたことで、左下肢の過剰努力が軽減し、骨盤帯の後傾や後退も改善した。また体幹を支持基底面内で保持させることが可能となった為、坐位保持も可能となったと考える。【まとめ】足底感覚は脳卒中患者の姿勢制御に影響を与える感覚であることが示唆された。本症例では足底感覚へのアプローチにより坐位姿勢に変化が認められ、食事動作の改善にもつながった。
著者
守安 由香 森近 貴幸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P2273-E4P2273, 2010

【目的】訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)では、利用者の自宅でリハビリテーションを提供するため、利用者以外の家族とも接する機会が多い。訪問した際に、家族と会話を交わすことも多いため利用者を在宅で介護することの悩みや、家族自身の健康面の不安など様々な話を聞くことがある。身体的、精神的に追い詰められているケースも少なくない。そこで、利用者を対象に現状の問題点を調査し、理学療法分野における家族ケアの必要性と訪問リハの可能性を見出すこととした。<BR>【方法】当院訪問リハ利用者のうち、家族ケアが必要であると考えられた2症例について検討を行った。<BR>ケース1:脳梗塞後遺症、慢性心不全、呼吸不全で在宅酸素療法を実施している80歳代女性。夫と二人暮らしで、家事はほぼ夫が行っている。FIM72点。HDS-R22点。うつ傾向があり精神科通院中。夫への依存、暴言があるが、通所サービスは本人が拒否しており、夫は介護負担感あり。このケースに対しては、夫の介護負担感が増加しており夫自身の健康面の不安も多くなってきていることから、通所サービス利用に向けて訪問する度に話し合いを設けた。利用者の生活リズムの構築、他者との交流という目的と、夫が自由に使うことができる時間(通院など)の確保という点から通所サービスを利用することの重要性を説明した。<BR>ケース2:脳梗塞後遺症による左片麻痺の70歳代男性。妻と二人暮らし。FIM84点。妻は利用者を積極的に歩行練習や映画に連れて行っているが、商業施設のハード面の不満などを感じ、障害者を介護することへの孤独感やいらだちを漏らすことが多い。このケースに対しては、介護保険サービスや自治体の制度についての関心も高かったため、それらについての情報提供や説明をその都度行った。訪問した際には妻からの話を聞く時間も取り、また妻への介助方法の指導も行った。<BR>【説明と同意】症例に挙げた利用者および家族に対して本研究について十分説明をした上で納得・同意を得た。また、結果において個人情報が漏れないことを説明し、同意書に署名していただいた。<BR>【結果】当院訪問リハ利用者のうち、一人暮らしではなく家族がいるケースではほぼ何らかの問題を抱えているということが分かった。ケース1については、利用者が通所サービスの利用を強く拒否していたが、利用者、家族、担当PTと話し合いを重ねることで生活リズムを作ること、および夫が自分のために使える時間を確保することの大切さを理解してもらうことができた。夫ともコミュニケーションをしっかりとることで悩みを傾聴した。そして、利用者は通所サービスを利用し始めることができ、夫も自分の時間を持つことができたため息抜きができている。また、訪問リハ以外の日でも夫が進んで利用者の歩行練習を行うようになり、歩行能力の向上が認められた。<BR>ケース2については、妻から行政やデパートなどの施設への不満を話されることが多いため、しっかりと傾聴して各種相談窓口や介護保険についての情報を提供したことで信頼関係を築くことができた。通所サービスへの要望も出てきたため、ケアマネジャー、通所サービススタッフ、担当PTと利用者・妻とでカンファレンスを開催し、情報の共有ができた。<BR>【考察】上記二つのケースを通して、利用者と家族が同居しているケースでは内容は様々ではあるが何らかの問題を抱えていると考えられる。在宅で利用者を介護する家族は相談相手がいない状況も多く、思いつめてしまうことがある。利用者は通所サービスなどで他者との交流があるが、家族はなかなかそのような機会を持つことができていないのが現状である。訪問リハでは、利用者とその利用者を看護・介護する家族等へのサービスの提供も含まれている。サービス提供の対象者は利用者であるが、その家族も含めてケアを行うことで利用者を取り巻く環境に介入することができると考えられる。看護の分野では家族ケアが重要視されているが、これからはリハの分野でも家族ケアが必要になってくると考えられる。利用者の家庭に入っていく訪問リハにおいては特に重要で、家族も含めた家庭全体をみていくことが、利用者一人一人にとってのより良い生活を送ることに繋がると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】高齢化が進む中で、在宅で介護を行う家庭は更に増加することが予想される。今後も訪問リハの需要が増加するため理学療法の分野でも家族ケアに関する研究が重要となり、利用者とともにその家族への介入の必要性が高まってくる。
著者
森近 貴幸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P2402-C3P2402, 2009

【目的】中学生サッカークラブチームのコンディショニングを目的にサポートを行っており、スポーツ外傷予防としてストレッチングやトレーニングなどの指導を行ってきた.しかしながら、競技特性や成長期の年代であることから、予期せぬ外傷や故障が絶えないのが現状であった.サポート開始から外傷件数の減少は認めるものの、より一層の予防を図るため、一昨年度よりFIFAの提唱する予防プログラムThe F-MARC 11(以下The 11)を導入し始めた.予防プログラムの効果をさらに引き出すために、第43回日本理学療法学会で発表した前十字靭帯再建術後の高校サッカー競技選手の競技復帰の一助となったフェルデンクライス・メソッドの動きによる気づき(以下ATM)を加えた予防プログラムを開始し、その効果を検証したので以下に報告する.<BR><BR>【対象と方法】本研究について十分に説明し本人及び保護者から同意を得た当クラブチーム在籍選手(平成19年度52名、平成20年度54名)を対象に4月から9月までの6か月間のスポーツ外傷件数を前年度の同時期と比較した.10月以降は3年生の進路の関係上、人数やサポートに違いが生じていることから除外した.試合など年間スケジュールは両年とも同様で指導者も同一である.The 11は一昨年より導入しており、筋力やバランスを中心としたもので構成されている.改訂版として、昨年10月よりATMのメニューを追加し、スポーツ外傷発生件数とその内訳を比較した.なお、オスグッドシュラッター病などの慢性スポーツ障害は除外した.また、4月と9月に実施しているJFAフィジカル測定ガイドラインに準じたフィールドテストの結果もあわせて考察した.<BR><BR>【結果】19年度では全件数24件で、前年度の27件に対して1割強の減少を認めた.今回のATMプログラム導入後では17件で、前年比70%の発生件数となった.内訳では、足関節靭帯損傷や捻挫が10件から7件、大腿、下腿の肉離れや筋損傷が6件から3件と減少した.膝関節靭帯損傷、半月板損傷は3件から2件に減少したが、前年度にあった前十字靭帯損傷は0件であった.また、フィールドテストでは、アジリティテストの数値は向上したが、他の項目では顕著な向上は認めなかった.<BR><BR>【考察】前年度との比較により、ATMプログラム導入後に発生件数が減少したことから、スポーツ外傷予防に効果があったと考えられる.サッカーでの外傷はコンタクトプレー、オフ・ザ・ボールでの動きなど多彩な原因が関与している.ATMにより神経系の賦活がなされ、これらの身のこなしが変化したのではないかと考えられる.よって、従来のThe 11では補えきれなかった身体の使い方を自分自身で学ぶことができたと考えられる.今後は、県内の中学生年代の各チームにも予防プログラムを導入し、どの要素に変化をもたらしたのか詳細に検証を進めたい.
著者
守安 健児 森近 貴幸 横井 正
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.B0790-B0790, 2007

【目的】 長期臥床により寝たきりとなった患者に対し、理学療法士として何を提供できるのか、今回3名の患者の記述から再考していく。<BR>【方法】 長期臥床により寝たきりとなった患者3名(寝たきり期間3~12年)に対して、接触課題、運動イメージ、視覚イメージを用いた問題を出し、解答していただいた。3名はいずれも既往に大腿骨頚部骨折あるいは脳梗塞などを発症後、寝たきりとなり、今回、誤嚥性肺炎等で入院となった。 四肢の屈曲拘縮が著明で、頭頚部は後屈位となり、褥創等の合併症も併発していた。<BR>【結果】 当初はいずれの患者についてもスポンジなどの接触課題やどの関節が動いたかを解答させる課題において疼痛を訴える、「(肩が)痛い」、「やめて、さわらんで」などの記述であった。上下肢に触れていなくても「動かすよ」というセラピストの声かけのみでも同様の記述を認めた。顔周囲の接触については「(触ってるのが)わかる」、「やわらけーなー」、「(鼻を触ると)鼻じゃな」などの記述を得られるが、体幹や四肢末梢程、疼痛や不快な感情の訴えが多く認められた。<BR> セラピストが「(○○関節は)どうなってるの?」、「曲がってるの、伸ばしているの?」等を問いかけても末梢では殆ど不正解となり、記述も「ようわからん」、「みえんもん」、「どっかにいっとる」などの記述しか得られなかった。<BR> 患者自身の身体を撮影し、患者に自分の身体の位置関係等をイメージさせる、あるいはモデル写真を見せ、自分の身体との差を記述させた。視覚的に写真を確認させた後の記述には変化を認め、「(肘は)曲がってしもうとるなあ」、「(手は)胸にのっかっとるなあ」などの3人称記述を得られるようになり、さらに触れたり、僅かに動かした場合にどこの部位かは正答を得やすくなった。「(指し示した写真のように)肘を伸ばそうか」、「掌が見えるように手を開いて」などとイメージさせることが可能となった。最終的には1人称記述が可能となった。<BR>【考察】 特徴的であったものに、3名とも当初は自分が臥床していることさえもわかっておらず、寝たきりが及ぼす自己身体認知の欠如の大きさを伺わせた。体幹、四肢末梢等は自分の身体ではあるものの注意は向かず、「痛い」という言葉で逃避的に保護するしかないものであることを伺わせた。今回の3名に於ては視覚イメージを手がかりにすることで自分の全体図を理解し、運動イメージを用いやすくなったと思われる。<BR>【まとめ】 すでに長期間寝たきりとなっている患者に対し、他動的関節可動域訓練や起坐訓練のみでなく、その世界を共有し、自分の身体、すなわち世界を取戻していくことが理学療法士の役割であると思われる。今後その治療展開をさらに検討していきたい。
著者
藤丘 政明 井上 敦 森近 貴幸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1150-C4P1150, 2010

【目的】<BR> 肩甲上腕リズム(Scapulohumeral Rhythm:以下、SHR)が破綻している症例において、筋力や臼蓋上腕リズムの動きなど局所の状態は改善しているものの、全体として協調した動きの獲得に難渋することは多い。そこで今回、拘束条件として肩甲骨の動きを制限する患側を下にした側臥位での挙上運動が、全体として協調したSHR獲得に及ぼす影響について明らかにすることを本研究の目的とする。<BR>【方法】<BR> 本研究を行うにあたって、患側を下にした側臥位でのアプローチ(以下、SL法)では患側を下にした状態で90°側臥位をとることで、自重にて肩甲骨の自由な動きは制限されるので、その環境で挙上をすることで肩甲骨の動きを用いない動作となり、SHR獲得につながるのではないかと仮説を立てた。その仮説を検証するために、肩関節挙上時に代償動作として肩甲骨挙上がみられる症例に対して、SHR再獲得に一般的に用いられている鏡でのフィードバックを用いた方法(以下、FB法)とSL法を行い、アプローチ前後の即時効果を90°前方挙上時、Empty can test(以下、ECT)とFull can test(以下、FCT)での90°外転時における僧帽筋上部線維(Trapezius Upper:以下、TU)の筋電図積分値(以下、IEMG)と肩甲骨外転距離という評価項目を用いて比較した。FB法では鏡でのフィードバックを行いながら代償の出ない範囲での挙上運動を50回実施し、SL法では患側を下にした90°側臥位の状態で0°~90°までの挙上運動を50回実施した。対象は棘上筋断裂修復術を施行してから4ヶ月が経過している50代女性で、他動運動での可動域制限や疼痛はなかった。筋力はマイクロFET(日本メディックス社製)を使用して測定したが、安定性を高める筋である僧帽筋中部線維などについては健側と比べて80~90%程度であった。また、棘上筋の機能については、萎縮はほとんど見られず、Drop Arm Test(-)、Jobe Testでの筋力は健側に比べ85%程度であった。90°前方挙上時の患側の肩甲骨外転距離は健側と比べ3cm大きく、TUのIEMGも患側の方が大きかった。表面筋電計にはユニバーサルEMG((有)追坂電子機器製)を用いた。TUの電極貼付部位は、C7と肩峰を結んだ線上でC7より2cm外下方とした。<BR>【説明と同意】<BR> 対象には本研究の趣旨を十分に説明し、理解を得た上で同意書に署名していただいた。<BR>【結果】<BR> FB法では、運動中のTUのIEMGは減少していたものの、評価項目での改善は得られなかった。患側を下にした運動中には、肩甲骨の外転距離にほとんど変化はなく、挙上時におけるTUのIEMGは0.8から0.1へと減少した。アプローチ後では、座位での前方挙上時におけるTUのIEMGにはほとんど変化は見られなかったが、肩甲骨外転距離は1cm程度改善し、「だいぶ肩甲骨が上がってこなくなったような気がする」という主観的な訴えも聞かれた。また90°外転時では、FCTでのTUのIEMGはほとんど変化しなかったものの、ECTでのIEMGは2.2から2.0へと減少した。<BR>【考察】<BR> 本症例は、肩関節周囲筋には健側とほぼ同等の筋力を有しているにもかかわらず、挙上時には肩甲骨の代償動作を伴った運動パターンが残存していた。そこで、運動パターン改善のためにFB法とSL法を行ったが、結果としてFB法では運動パターンに変化が得られなかった。この要因としては、鏡からの視覚的フィードバックによって、代償動作が出ない範囲での運動は行えるが、あくまで代償動作が出ない範囲の運動であるため、代償動作が出現する肢位での運動パターンの変化には結びつかなかったのではないかと考えられた。一方、SL法では肩甲骨外転距離やTUのIEMGが減少した。これについては仮説で考えたように、挙上運動時に運動の拘束条件として肩甲骨の動きを制限したことで、TUによる代償動作が行ないにくくなり、肩甲骨の動きを用いない動作が可能になったためではないかと考えられた。そうすることで代償を用いないパターンでの運動学習が行え、座位での運動パターンの改善に繋がったのではないかと考えられた。また、SL法は無意識下での運動が可能であるので、ホームエクササイズとしての指導が容易であり外来通院患者のSHR獲得の一助にもなりうるのではないかと考えられる。ただ、SL法は本症例のように疼痛がない場合には適応できるが、SL法が疼痛を惹起するような症例に対しては禁忌であると考えられる。そういった症例に対してどういった方法を用いるかについては今後の課題である。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>患側を下にした側臥位でのアプローチがSHR獲得に及ぼす影響について明らかにすることで、局所の状態は改善しているにもかかわらず肩甲骨挙上のパターンを呈している症例に対するSHR獲得への介入方法の一助となり得る。
著者
森近 貴幸 秋田 直人 浪尾 美智子 金谷 佳和 金谷 親好
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【目的】膝前十字靭帯(以下ACL)再建術後の競技復帰を目指したリハビリテーションでは、再建術からの時期、筋力などを考慮しながら運動強度を増加させてゆく効率的なプログラム構築が要求されている。また、早期復帰を目指し、ACLに負担をかけない筋力増強や再断裂予防のための取り組みも重要である。今回ACL再建術後の高校サッカー競技選手に対して、クリティカルシンキングによるプログラム構築を行い、アプローチとして動きによる気づきを取り入れた症例で効果的な知見が得られたので考察を交え以下に報告する。<BR>【方法】対象は試合中に受傷し、ACL再建術を施行した高校サッカー競技選手。治療プログラムにおいてクリティカルシンキングを用いて、筋力増強とともに基本的動作、サッカー動作、補助トレーニングをMECE(モレなく、ダブりなく)で段階的に行った。また、フェルデンクライス・メソッドによる動きによる気づき(以下ATM)を補助トレーニングの中に取り入れ、自覚的な運動能力の変化を評価した。ATMは、関節を滑らかに動かすレッスンなどで構成されており、1日に1プロセスをゆっくりと心地よい自動運動で行なった。<BR>【結果】クリティカルシンキングを用いたプログラム構築では、各時期に応じたメニューを提供することができ、MECEを活かしてトレーニングの無駄を省けた。また、治療への積極的な参加を促すことが出来た。ATMを取り入れてから、「余分な力が入らなくなった」「自分の身体に対する意識が変わった」という自覚的変化が現れ、動作が滑らかになった。トレーニングの段階が進むにつれサッカー動作の質が向上し、「ボールを扱う感じが違う」「ドリブルが楽になった」という感想と、「ボールタッチが柔らかくなった」という客観的意見が得られた。<BR>【考察】クリティカルシンキングを用いたことにより、各段階で必要な筋力や動きを明確にすることができた。この問題点を選手自身が認識することで、効果や取り組む姿勢に変化が現れた一因になったと考えられる。また、MECEにてプログラムのモレ、ダブりをなくしたことで時間的な効率が上がり、早期復帰につながるのではないかと考えられる。アプローチでは、フェルデンクライス・メソッドによるATMを補助トレーニングの中にレッスンとして早期から取り入れたことで、動きを通して自分の身体に対する気づきを学習することができた。これにより、走ったり、ボールを扱ったりする時期が来る前に神経系による身体の準備が完了していたため、サッカー動作トレーニングへの移行がスムーズに行なえた。さらに、受傷前の習慣的な動作が改善されたため、動作のレパートリーが豊富になり再断裂の予防とパフォーマンス向上につながったと考えられる。<BR>