著者
針間 博彦
出版者
日本精神保健・予防学会
雑誌
予防精神医学 (ISSN:24334499)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.9-16, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
22

psychosis概念の歴史と現状を概説し、現在の用法と日本語訳の問題について論じる。この語は19世紀半ばにvon Feuchterslebenによって、当時神経系の疾患全般を示したneurosisのうち精神症状を呈する病態を指すものとして導入された。19世紀後半以降、neurosisが心因性・非器質性の障害を示すようになると、psychosisは非心因性・疾患性の精神症候群を示すものとして用いられるようになり、neurosisとpsychosisは対概念となった。DSMとICDにおける精神科分類はpsychosisとneurosisの二分法に基づいて始まり、その区別は精神機能の障害の重症度に基づくものだった。1980年に発表されたDSM-IIIでは、この二分法は廃止され、psychoticという形容詞は幻覚や妄想など特定の精神症状の存在を示す記述用語として用いられることになった。こうした変化はICD-10に取り込まれ、現在のDSM-5、ICD-11に受け継がれている。DSM-IIIでいったん破棄されたpsychosisという名詞は、近年の早期介入および超ハイリスク群研究の流れの中で、新たに状態像診断として頻用されるようになり、DSM-5ではこの動きが取り込まれ、attenuated psychosis syndromeが今後のカテゴリー案として挙げられている。特定の症状の存在によって規定される現在のpsychosis概念は、成因論的には異種混合である。psychosisは「疾患」や「疾患単位」を意味せず、症状(群)の存在を示すにすぎないことから、日本精神神経学会はその日本語訳を従来の「精神病」から「精神症」に変更することを提案している。psychosisとその訳語を用いる際は、こうした現在の用法と問題に留意する必要がある。
著者
新川 祐利 針間 博彦 梅津 寛 齋藤 正彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.875-880, 2013-09-15

抄録 妻の妄想に感応したパーキンソン病の初老期男性例を報告した。患者はX-11年(53歳)にパーキンソン病を発症した。X-6年(58歳),妻は「電磁波で攻撃され体がしびれる」という身体的被影響体験や「電磁波で悪口を送ってくる」という幻聴とそれらに基づく被害妄想を呈し,翌年,患者は妻の被害妄想に感応した。X年(64歳),2人は当院を初診し別々の病棟に医療保護入院となった。患者には被害妄想とともに幻聴と身体的被影響体験の感応が疑われる訴えもあった。妻が統合失調症を発症した後,患者は妻の症状に感応したと考えられたが,パーキンソン病による精神病症状の鑑別を要した。入院後は抗精神病薬を投与せず,妻からの分離のみで「電磁波」の訴えは消失したため,感応精神病と診断された。パーキンソン病が感応の成立に影響を与えた要因として,心理社会的要因には社会的孤立と妻優位の関係性の強化,脳器質的要因には軽度認知障害による現実検討力の低下が考えられた。