著者
新川 祐利 梅津 寛 大島 健一 岡崎 祐士
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.881-888, 2012-09-15

抄録 大麻乱用後に幻覚妄想状態を呈した2症例を報告した。症例1は大麻精神病,症例2は大麻乱用の経験がある統合失調症と診断し,両者の違いを考察した。急性期症状は類似点が多いが,本症例の大麻精神病は幻覚妄想に対し恐怖や緊張を伴わず,妄想内容が了解可能であることが統合失調症と異なっていた。大麻精神病の経過では,大麻による無動機症候群を認め,意欲減退などが原因で社会機能が低下し,統合失調症の陰性症状と類似した。しかし,対人関係の障害や認知機能障害は認めず,治療により社会機能が病前の状態まで回復したことが異なっていた。大麻乱用が統合失調症を惹起する可能性が推察された。
著者
宇良 千秋 宮前 史子 佐久間 尚子 新川 祐利 稲垣 宏樹 伊集院 睦雄 井藤 佳恵 岡村 毅 杉山 美香 粟田 主一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.243-253, 2015-07-25 (Released:2015-08-13)
参考文献数
26
被引用文献数
12

目的:本研究の目的は,地域に暮らす高齢者が自分自身で認知機能や生活機能の低下に気づき,必要なサービス利用につながるようにするための自記式認知症チェックリストの尺度項目案を作成し,因子的妥当性と内的信頼性を検証することにある.方法:認知症の臨床に精通した専門家パネルが37の候補項目で構成される質問票を作成し,65歳以上の地域在住高齢者2,483名を対象に自記式アンケート調査を実施した.探索的因子分析と項目反応理論(IRT)分析を用いて,チェックリストの尺度項目案を作成した(研究1).研究1で作成した尺度項目案を用いて,地域在住高齢者5,199名を対象に自記式アンケート調査を実施した.再び探索的因子分析を行い,10項目の尺度項目案を作成した上で確証的因子分析を行い,信頼性係数を算出した.結果:37の候補項目の探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った結果,5因子が抽出された.因子負荷量0.4以上の項目の内容から,第1因子は「認知症初期に認められる自覚的生活機能低下」,第2因子は「認知症初期に認められる自覚的認知機能低下」と命名した.因子負荷量が大きく,かつIRT分析の傾きの指標が高い項目を10項目ずつ選び,合計20項目からなる尺度項目案を作成した(研究1).20項目の探索的因子分析の結果から,第1因子に強く関連する5項目,第2因子に強く関連する5項目を選出し,10項目の尺度項目案を作成した.この10項目で確証的因子分析を行ったところ,2因子構造であることが確認された(χ2=355.47,df=31,p<0.001,CFI=0.989,GFI=0.985,AGFI=0.973,RMSEA=0.048).第1因子および第2因子に関連する下位尺度のCronbach αはそれぞれ0.935,0.834であり,全項目のCronbach αは0.908であった.結論:2因子構造10項目の自記式認知症チェックリスト尺度項目案を作成し,因子的妥当性と内的信頼性を確認した.
著者
新川 祐利 針間 博彦 梅津 寛 齋藤 正彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.875-880, 2013-09-15

抄録 妻の妄想に感応したパーキンソン病の初老期男性例を報告した。患者はX-11年(53歳)にパーキンソン病を発症した。X-6年(58歳),妻は「電磁波で攻撃され体がしびれる」という身体的被影響体験や「電磁波で悪口を送ってくる」という幻聴とそれらに基づく被害妄想を呈し,翌年,患者は妻の被害妄想に感応した。X年(64歳),2人は当院を初診し別々の病棟に医療保護入院となった。患者には被害妄想とともに幻聴と身体的被影響体験の感応が疑われる訴えもあった。妻が統合失調症を発症した後,患者は妻の症状に感応したと考えられたが,パーキンソン病による精神病症状の鑑別を要した。入院後は抗精神病薬を投与せず,妻からの分離のみで「電磁波」の訴えは消失したため,感応精神病と診断された。パーキンソン病が感応の成立に影響を与えた要因として,心理社会的要因には社会的孤立と妻優位の関係性の強化,脳器質的要因には軽度認知障害による現実検討力の低下が考えられた。