著者
村井 聡 塩沢 英輔 鈴木 髙祐 佐々木 陽介 本間 まゆみ 瀧本 雅文 矢持 淑子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.296-306, 2022 (Released:2022-08-31)
参考文献数
28

濾胞性リンパ腫は低悪性度B細胞リンパ腫であり一般に緩徐な経過を示す.経過中に組織学的形質転換Histological transformation(HT)をきたすと予後不良とされる.十二指腸型濾胞性リンパ腫Duodenal-type follicular lymphoma(DFL)は濾胞性リンパ腫の一亜型である.DFLではHTは稀であるとされるが,その発生頻度に関して報告は少ない.DFL のHTの発生頻度を明らかにすることは治療方針を考えるうえで重要な意義を持つ.DFL症例を長期観察と内視鏡検査による連続的な病理組織診断によって組織学的変化を評価しHTの発生を病理学的に検討する.十二指腸・小腸生検により濾胞性リンパ腫と診断された37症例をデータベースから抽出した.節性濾胞性リンパ腫の消化管浸潤例を除外するため,消化管リンパ腫Lugano分類における臨床病期Ⅰ期のみを対象とした.Hematoxylin-eosin染色標本による組織形態学的評価と免疫染色標本による評価を行いHTの発生を評価した.条件を満たしたDFLの症例は20症例だった.診断時のHistological gradeは20症例全例でGrade 1-2だった.臨床的な観察期間は中央値56か月(範囲:12か月~147か月)だった.経過中に臨床的に臨床病期の進行した症例はなかった.病理組織学的にHTが認められた症例はなかった.DFLにおけるHTの発生頻度を評価するうえで,本研究のように単一施設で同一患者において定期的な内視鏡検査・生検を長期の観察期間に渡って行いHTの有無を組織学的に確認すること,ならびにDFLの診断において節性のFLの十二指腸浸潤を確実に除外することは高い信頼性があると考えられた.DFLと的確に診断できる場合にはHTのリスクは低く,節性のFLに準じた集学的治療を行うことは過剰な治療となる可能性がある.