著者
錢谷 菜々未 小幡谷 英一 松尾 美幸
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.250-258, 2016-11-25 (Released:2016-11-29)
参考文献数
51

長期にわたる経年により,木材の音響特性や安定性が向上すると言われている。しかし最近になって,それらの変化の一部が,高湿度での吸湿履歴によって解消するような一時的な変化であることが明らかとなった。類似の一時的な現象は,木材を水分存在下で加熱した場合にも認められる。これらの一時的な変化は,木材構成分子の物理エージングに伴う一時的な細孔の閉鎖に起因すると推察される。木製の古楽器や古文化財を保存する際には,経年によって変化した物性が吸湿に伴って回復することを考慮しなければならない。また,熱処理材の実用性能を正確に評価するためには,加熱によって生じる一時的な変化を除外しなければならない。本論文では,木工芸品や木製楽器の品質に関わる木材物性の経年や熱処理に伴う可逆的および不可逆的な変化について概説する。