- 著者
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鎌田 芳彰
- 出版者
- 公益社団法人 日本農芸化学会
- 雑誌
- 化学と生物 (ISSN:0453073X)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.11, pp.827-834, 2016-10-20 (Released:2017-10-20)
- 参考文献数
- 32
- 被引用文献数
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栄養は生命にとって必要不可欠である.なかでもアミノ酸(窒素源)はタンパク質の材料として最も基本的な栄養素に数えられる.タンパク合成は生命活動の根幹に位置する現象であり,産業的には物質生産,医学的にはさまざまな代謝疾患(同化と異化のバランスの異常)と深く結びついている.したがって,アミノ酸を感知してタンパク合成を活性化する役割を果たす細胞内アミノ酸栄養センシングの解明は,生命現象の基本的な理解に直結するのみならず,さまざまな疾患の原因の発見や治療法の開発,そして物質生産の向上に役立つ技術の分子的基盤を提供できる.しかしながら,アミノ酸センシングの研究はまだ闇に包まれている.その理由として,(1) 20種類のアミノ酸をどうやって感知するのか,(2)アミノ酸は,細胞内にて合成・代謝され複雑な存在様式を示す,(3)アミノ酸の局在は細胞質,オルガネラ(細胞内プール)と多岐にわたり(=どこのアミノ酸を感知するのか),また細胞外からの取り込みにも大きく影響を受ける,といったことが挙げられる.その闇を照らすのがトア複合体1(TORC1)である.TORC1研究を起点として,細胞のアミノ酸感知についてさまざまなことがわかってきた.後述するように,アミノ酸を感じて,TORC1は細胞内で旅をするのである.