著者
厚井 聡志 新井 康祐 野上 彩子 當間 勇人 山本 正英 三浦 修 長尾 俊景
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.1487-1491, 2020 (Released:2020-11-06)
参考文献数
15

75歳男性。糖尿病性腎症による末期腎不全にて維持血液透析中,透析導入10年後に血清亜鉛55 µg/dlと低下し,亜鉛含有胃粘膜保護薬(polaprezinc)の処方が開始されると,徐々に汎血球減少が出現・持続した。投与開始4ヶ月後,血清亜鉛129 µg/dlと上昇し,亜鉛含有胃粘膜保護薬の投与は中止されたが汎血球減少は進行し,当科に紹介された。WBC 1,700/µl,Hb 8.9 g/dl,Plt 9.5×104/µlと汎血球減少を認め,WT1 mRNA 76 copy/µgRNAと若干高値だった。骨髄像で巨赤芽球様変化や環状鉄芽球があり,骨髄異形成症候群を鑑別に挙げたが,血清銅<2 µg/dl,血清セルロプラスミン3 mg/dlと低値であり,亜鉛過剰に起因する銅欠乏による造血障害と考えた。ココアの摂取による銅の補充で汎血球減少は改善し,補充開始4ヶ月後の骨髄像で当初の形態異常は消失した。慢性腎臓病患者や透析患者の亜鉛補充時には銅欠乏による造血障害に注意が必要と考えられた。