著者
長尾 悠里
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.233-251, 2018 (Released:2018-07-02)
参考文献数
19

少子化傾向にあるなか,学校統合が課題となっている。学校は教育を施す機能だけでなく,校区住民に活動場所や交流の機会を与える機能や,校区の象徴としての機能を持つ。そのため,学校統合によって校区社会に大きな影響が及ぶと指摘されている。しかし,その中でも学校の持つ象徴性に関する分析はこれまで十分になされていない。そこで本稿では,公立学校が立地しない地域である埼玉県秩父市大滝地区において,学校の持つ機能に着目して小学校の消失過程を分析し,学校統合に関する従来の研究枠組みを再考した。その結果,大滝地区では人口減少や産業不振,ダム建設に伴う校区への諦めから,将来性の欠如した校区で小学校統合に反対しても仕方がないという考えが生じ,小学校統合が消極的に支持されたことが判明した。加えて,小学校統合に伴い校区内の子どもや若年層の存在を感じられる場所が消失し,将来性の欠如が可視化され,諦めが強まる可能性があることも明らかとなった。ここから,小学校の存否と校区の将来性の認識との間には密接な関連があることが示唆され,小学校は校区の「将来性の」象徴としての機能を持つと考えられる。そして,校区の将来性の認識の有無によって,学校統合に関する住民間の対立構造が変化し得ることが指摘できる。