- 著者
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長尾 聡哉
- 出版者
- 三輪書店
- 雑誌
- 脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, no.4, pp.297-299, 2015-04-25
Tinel徴候とは,末梢神経損傷が回復途上にあることを示す徴候であり,銃創後の末梢神経損傷手術例について初めて報告がなされた.第一次世界大戦中にあたる1915年,ドイツの生理学者Paul Hoffmann(1884-1962)とフランスの神経学者Jules Tinel(1879-1952)によって相次いで報告されたことから3,11),ドイツ語圏ではHoffmann-Tinel徴候とも呼称されている.前述の文献によれば,同徴候は「神経走行に一致した部位を末梢側から中枢側へ指で軽く叩打していくと,神経線維の再生部位に一致して異常感覚を生じる」と記載されており,Hoffmannは異常感覚をeine prickelnde Empfindung(チクチク感)と表現し,英訳者であるBuck-Gramckoらはcreeping sensationと訳している4).また,Tinelは異常感覚をfourmillement(蟻走感)と表現し,Kaplan7)はこれをtinglingと英訳している.
本徴候は,知覚神経再生の際に軸索の再生が髄鞘の再生に先行するため,先端は無髄で機械的刺激に対して鋭敏であることに起因すると考えられている.本徴候は受傷後早期には出現せず,受傷後3〜4週から出現する.経時的に末梢へ移動し,中枢側から軽減していく場合は神経再生の進行を意味し,本徴候が移動せずに同じ部位に留まっている場合は再生が進まず損傷部に神経腫が形成されていることを示唆する.また,長期にわたって本徴候が出現しない場合は,末梢神経の機能再生は期待できず,予後が不良であることを意味している.