著者
清水 敬親
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.418-421, 2015-04-25

歴史的報告 1912年にフランスのMaurice KlippelとAndré FeilがL. Josephという46歳のtailorの貴重な剖検例を報告した1).彼は慢性的な腹痛と繰り返す胸水貯留を患っていた.彼の外見は特徴的で,“極端に短い首・毛髪線の低さ”が目立っていた.死亡前の臨床診断は,胸膜炎・肺うっ血(肺水腫)・腎炎であり,タンパク尿・頻脈を呈し,やがて死亡した.剖検では,心肥大,腎臓の変形とともに異常な形態の脊椎をもっていることが明らかとなった.頭蓋頸椎移行部は奇形を呈し,多少の頸椎屈曲・伸展はできたが,回旋は不能であった.脊柱はたった12個の脊椎骨で成り立っていた.KlippelとFeilはこれらの所見を「肋骨が頭蓋底から生えている先天性頸椎欠損」と解釈し,“cervical thorax”と呼んだ.胸椎後弯,胸腰椎側弯も観察されたという.要約すれば,頭蓋頸椎移行部を含む全脊椎に先天性と思われる癒合椎や脊柱変形がみられ,内臓奇形をも伴っていたきわめてまれな症例,ということである.
著者
朝比奈 正人
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.133-138, 2017-02-25

はじめに 胸髄には交感神経節前神経,仙髄には副交感神経節前神経(脊髄中枢)が存在し,これらの神経に連絡する経路は頸髄を下行するため,頸髄病変によりこれら下行路が障害されると自律神経障害を呈する.自律神経症候が最も注目される脊髄疾患は脊髄損傷であろう.脊髄損傷の急性期には,血圧低下(脊髄神経原性ショック),尿閉などの排尿障害,便秘・便失禁などの直腸障害,発汗減少などを呈する.また,慢性期にみられるautonomic dysreflexia(膀胱刺激や内臓刺激,体性刺激により高血圧,頭痛,発汗,徐脈などが誘発される発作性の異常)は,脊髄損傷患者のリハビリテーションや介護を行ううえで大きな問題となる.一方,頸椎症は日常臨床で遭遇することの多い疾患であり,脊髄神経根あるいは脊髄の障害により多彩な症候を呈する.頸椎症性脊髄症は自律神経脊髄下行路の障害により自律神経症候を呈するが,関心は低く,研究も少ないのが現状である.本稿では,臨床において脊椎症性脊髄症における自律神経症候に焦点をあて概説する.
著者
鈴木 秀和 遠藤 健司 松岡 佑嗣 西村 浩輔 関 健 堀江 真司 前川 麻人 小西 隆允 山本 謙吾
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.265-269, 2017-04-25

はじめに 成人脊柱変形患者は社会の高齢化に伴い増加し,脊椎矢状面アライメントに関する知見の重要性は増している.加齢による姿勢変化は,胸椎が後弯化し頸椎前弯が増強する傾向にあり,頸椎症の発症に大きく関与することが知られているが1,2,13),骨盤を含めた全脊椎アライメントと頸椎アライメントに関する定量的解析は多くなされていない.頸椎形態は,直線状,S字状,すべりの存在など多様性があり,頸椎前弯の計測法にもさまざまなものがある6).C2-7角は,途中の形態が不明となり前弯の形成の程度が不明となるため,C2-7角で頸椎矢状面アライメントを述べることにも問題があるといわれてきた9).また,頸椎矢状面アライメントは年齢,性差や個体差があるため,正常の定義,病的アライメントの解釈を明確に決めることは難しい11).1968年,石原8)は頸椎弯曲指数(石原指数)を用いて頸椎アライメントの性差,年代による変化があることを述べた7,8)が,徐々に,全脊椎矢状面アライメントとの関連が明らかになり,頸椎アライメントの概念は変化しつつある.近年,日本人を対象にYukawaらは626人の性別,年代別に全脊椎矢状面アライメント計測と,1,200人の頸椎矢状面アライメントと頸椎可動域(range of motion:ROM)を示した11,12).頸椎前弯の消失や後弯発生は,C2-7sagittal vertical axis(SVA)やT1椎体の傾斜と大きな関連があり,頸椎症発生は隣接脊椎のアライメントに強く影響を受ける2,4).本稿では,日本人のデータより得られた健常人の頸椎矢状面アライメントと全脊椎矢状面アライメントとの関係について述べる.
著者
山田睦雄
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル
巻号頁・発行日
vol.17, no.12, pp.1137-1144, 2004
被引用文献数
4
著者
白土 修 遠藤 達矢
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.28, no.11, pp.957-962, 2015-11-25

はじめに 首下がり症候群(dropped head syndrome:DHS)は,頸部伸筋群の筋力低下が主因である頸部の垂れ下がり症状(chin-on-chest deformity)が発生する後弯変形の特殊病態である1).症状としては,飲み込みの悪さからくる摂食困難や洗面の不自由があり,頸部痛を訴える場合も多い.前方注視困難により歩行に支障が生じるなど日常生活にさまざまな困難をきたし,QOLを大きく低下させる. DHSに関する報告は,1886年Gowersの重症筋無力症例が初めてである.原因疾患として,運動ニューロン疾患,多発性筋炎,筋ジストロフィー,多系統萎縮症,パーキンソン症候群,頸椎症,Machado-Joseph病,甲状腺機能低下症,進行性核上性麻痺,脳梗塞など多岐にわたる5,9,17,21).そのため,DHSを診察する場合,その鑑別を行うことが必要である.背景に治療可能な種々の疾患が存在することを考慮して専門医の判断を仰ぐことも必要である. 原因となる基礎疾患がある場合,その治療が必須である.特に神経内科的疾患の場合,内科的コントロールがとれていることが重要である.外科的介入も報告がみられているが,効果は報告によってさまざまであり,統一した結論に至っていない22).頸椎症によるDHSに対しては,手術療法が有効であったという報告も散見されるが,限界があるという意見も多い.しかし,手術による頸椎alignmentや頸部不安定性の改善は,患者の生活の質の向上に有益である場合もある4,16,18,24). 保存療法・観血的療法のいずれも,リハビリテーション(以下,リハと略す)がADLやQOL向上,姿勢改善に有効である場合がある.本稿では,DHSの報告例を再検討し,病態や姿勢の特徴を踏まえリハの可能性について述べる.
著者
小久保 安朗 大木 央 杉田 大輔 中嶋 秀明
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.405-412, 2016-04-25

はじめに 仙骨骨折は,交通外傷や高所からの転落などによる高エネルギー外傷により発生し,骨盤輪骨折の23%に伴うと報告されている12).著者らの施設において,完全不安定型骨盤輪骨折の27%に仙骨骨折を伴っていたが,仙骨横骨折は全骨盤輪骨折224例中5例(2%)とまれであった20).不安定型骨盤輪骨折は高エネルギー外傷により発生するのに対し,仙骨横骨折は転倒などの比較的小さい外力でも発生することがある.また,最近は非常に軽微な外力で発生する骨脆弱性骨盤骨折が注目されており高頻度に仙骨骨折を伴うが,高エネルギー外傷で発生する仙骨骨折とは骨折の機序が大きく異なるため,同一の骨折として論ずることはできない.一方,仙骨骨折の約半数に神経損傷を伴うとの報告4)も存在する.本稿では,高エネルギー外傷に伴う仙骨・尾骨骨折の診断と治療について論述する.
著者
梅林 大督 原 政人 橋本 直哉
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.31, no.11, pp.985-991, 2018-11-25

はじめに Augmented reality(AR)とは,現実環境において視覚・聴覚などの知覚に与えられる情報をコンピュータ処理により追加,削減,変化させる技術である5,11).コンピュータ上で作成した仮想画像,映像,音声などを現実世界に反映する技術を示す.すでにわれわれの生活に広く浸透しており,スマートフォンやカーナビゲーションなどに用いられている.カーナビゲーションの実際を図示する(図1).カーナビゲーションは古典的には紙媒体の地図を読むことからはじまる.その後,ディスプレイの地図上に矢印を走らせることで経路を確認するナビゲーションが一般化された.これに対してARカーナビゲーションでは,ディスプレイの代わりにフロントガラスなどへ映像を投影して現実空間と融合させる手法が利用される.位置情報に付帯する情報を,ナビゲーションシステムを用いてフロントガラスに投影して現実視野と融合させたもの,これがARカーナビゲーションである.このナビゲーションシステムは自動車だけでなく,手術におけるナビゲーションにも有用であり応用されてきた.本稿では,AR技術の脊椎手術への応用の実際について紹介する.

1 0 0 0 Cobb症候群

著者
関 俊隆 飛驒 一利
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.390-393, 2015-04-25

Cobb症候群とSpinal arteriove-nous metameric syndrome Cobb(コブ)症候群は神経皮膚症候群の1つであり,脊髄動静脈シャント(spinal arteriovenous shunts:SAVS)と椎体や皮膚などに発生した血管病変が同一の髄節に認められる疾患である.1915年にStanley Cobb(1887-1968)が,突然の背部痛および対麻痺で発症した8歳の男児の症例を報告したことに始まる3).この男児は左背部にポートワイン母斑と,同じ髄節レベルに脊髄血管腫が認められた.しかし,本文中の手術所見および手術シェーマから推測すると,脊髄血管腫ではなくSAVSであったと思われる. Cobb症候群と同様に顔面や網膜の血管奇形に脳の血管奇形が合併する場合があり,合併する脳の血管奇形がAVSの場合をWyburn-Mason(ワイバーン・メイソン)症候群11),静脈奇形の場合をSturge-Weber(スタージ・ウェーバー)症候群10)と呼んでいる.これらの症候群は脳や脊髄の同一分節の異なる部位に複数の血管奇形が認められる場合を指しており,近年ではmetameric syndromeとして考えられている6).脳病変におけるmetameric syndromeは,AVSの場合はcerebrofacial arteriovenous metameric syndrome(CAMS)2),静脈奇形の場合はcerebrofacial venous metameric syndrome(CVMS)9)に分類され,さらにこれらは3つの領域に分けられている.また,脊髄にAVSを合併するCobb症候群は,spinal arteriovenous metameric syndrome(SAMS)として考えられるようになってきている7).ヒトの脊髄は31の髄節に分かれており,8対の頸髄,12対の胸髄,5対の腰髄,5対の仙髄,そして1対の尾髄からなっている.そのため,Cobb症候群(SAMS)はSAMS 1からSAMS 31に分けることができる7).

1 0 0 0 Tinel徴候

著者
長尾 聡哉
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.297-299, 2015-04-25

Tinel徴候とは,末梢神経損傷が回復途上にあることを示す徴候であり,銃創後の末梢神経損傷手術例について初めて報告がなされた.第一次世界大戦中にあたる1915年,ドイツの生理学者Paul Hoffmann(1884-1962)とフランスの神経学者Jules Tinel(1879-1952)によって相次いで報告されたことから3,11),ドイツ語圏ではHoffmann-Tinel徴候とも呼称されている.前述の文献によれば,同徴候は「神経走行に一致した部位を末梢側から中枢側へ指で軽く叩打していくと,神経線維の再生部位に一致して異常感覚を生じる」と記載されており,Hoffmannは異常感覚をeine prickelnde Empfindung(チクチク感)と表現し,英訳者であるBuck-Gramckoらはcreeping sensationと訳している4).また,Tinelは異常感覚をfourmillement(蟻走感)と表現し,Kaplan7)はこれをtinglingと英訳している. 本徴候は,知覚神経再生の際に軸索の再生が髄鞘の再生に先行するため,先端は無髄で機械的刺激に対して鋭敏であることに起因すると考えられている.本徴候は受傷後早期には出現せず,受傷後3〜4週から出現する.経時的に末梢へ移動し,中枢側から軽減していく場合は神経再生の進行を意味し,本徴候が移動せずに同じ部位に留まっている場合は再生が進まず損傷部に神経腫が形成されていることを示唆する.また,長期にわたって本徴候が出現しない場合は,末梢神経の機能再生は期待できず,予後が不良であることを意味している.
著者
帖佐 悦男
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.322-324, 2015-04-25

提唱名 Fabere sign(test),figure-four testと呼ばれることもある

1 0 0 0 脊髄梗塞

著者
佐藤 慶史郎 内山 剛
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.103-106, 2016-02-25

はじめに 脊髄梗塞は,脊髄を支配する血管の血流障害により引き起こされる急性脊髄障害,脊髄実質の壊死である.急性脊髄障害の5〜8%,全脳卒中の1〜2%とまれな疾患である12).広い年齢層にみられるが,平均年齢は50〜60代とする報告が多い3,6,8〜11). 日常診療において出会う機会は多くはないが,その診断,治療には難渋することがあり,重篤な後遺症を残す場合もあるため,その病態,診断,治療に関して述べる.