著者
分部 哲秋 長島 聖司 佐伯 和信
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

形質人類学的側面から九州地方から出土している弥生人骨の地域的特性に関する研究を遂行した。調査対象人骨は長崎大学に保管されている資料を用い、縄文時代と同様に漁労・採集に生活基盤をおいていた西北九州地域の弥生人骨、南九州離島群出土の弥生相当期人骨と大陸からの渡来系と考えられる北部九州地域の弥生人骨について骨計測、頭蓋小変異観察を行い、次の結果を得た。1.西北九州及び南九州離島弥生人の計測的特徴(1)西北九州弥生人は、北部九州弥生人と比較して脳頭蓋がやや小さく、特に高径が小さい。頭型は西北九州弥生人の方がやや短頭に傾く。顔面頭蓋では幅径はほぼ同じであるが、顔高、上顔高の高径にはかなりの差が見られ、北部九州弥生人よりも著しい低顔傾向を示す。また、西北九州弥生人の顔面は平坦ではなく、立体的である。(2)南九州の弥生相当期人は、大局的には西北九州弥生人と同類で縄文系の弥生人と考えられるが、頭型が短頭に傾くことと顔面の平坦性がやや強い点で西北九州弥生人とは違いが見られる。(3)各遺跡ごとでの男性の平均推定身長値は、北部九州弥生人が162cm以上あるのに対し、西北九州及び南九州弥生人は160cm以下であり低身長である。2.西北九州及び南九州弥生入の頭蓋形態小変異形質の特徴(1)西北九州弥生人の出現頻度は、北部九州弥生人と比較して眼窩上孔が低頻度で出現し、逆に舌下神経管二分、翼棘孔、頬骨後裂、横後頭縫合残存は高頻度で出現する。この傾向は縄文人に酷似している。(2)南九州弥生人の出現傾向は西北九州弥生人に類似するが、舌下神経管二分と顎舌骨筋神経管が低頻度である点でこれと異なる。(3)外耳道骨腫は、西北九州及び南九州弥生人に高率で出現しており、形質のみならず生活様式が北部九州地域の弥生人と異なっていたことが示唆された。