- 著者
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長崎 正義
今田 健
足立 晃一
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2013, 2014
【はじめに,目的】当院は理学療法士3名,作業療法士3名,言語聴覚士2名で構成されている車いす委員会がある。当委員会では新規に導入する車いすの機種選定,購入手続き,導入後の使用法に関する勉強会,整備点検(以下,点検)を担っている。その中の点検は,平成22年4月から月2回の頻度で実施し,病棟で使用している全ての調整,修理を行い,安全に使用できるよう努めている。車いすの点検を実施してきた中で,要整備項目に集約性を感じた。本調査の目的は,点検結果から整備を認めた箇所を記録,集計することでその傾向を把握し,本委員会としての今後の取り組みに活かすことである。【方法】点検は本委員会委員が行い,平成22年4月から毎月2回実施している。チェックシートを用いて,各車いすの点検を実施した。点検結果は院内の申し送りで報告し,担当セラピストに車いすの確認,調整を促している。車いすを集計期間は平成22年4月から平成25年9月までの全84回の点検記録から後方視的に調査した。調査項目は,点検した車いすの述べ台数,大車輪の車軸の緩み(以下,車軸),適正な空気圧(以下,空気圧),ハンドリムの緩み(以下,ハンドリム),ブレーキの効き具合(以下,ブレーキ),バックサポートの張り具合(以下,バックサポート),アームサポートの緩み,フットサポートの高さや向き(以下,フットサポート),キャスターの緩みやキャスター軸の水平(以下,キャスター),上記8項目以外の項目をまとめたその他の計9箇所における要整備件数の合計であった。また,機種特異性のある箇所の整備については集計後,除外項目として扱った。ネジの緩みやパーツの位置や向きに左右差がある場合に要整備箇所とみなした。点検台数から各点検箇所における除外項目の件数を引き,各項目における整備件数の割合を算出した。R ver.2.15を使用して全体の整備割合に対する各調査項目における整備箇所の易発現性に対してカイ二乗検定を行った。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に従い,点検に関する調査は,使用者を含めたすべての関係者に説明を行い,同意を得たうえで実施した。点検において要整備を認めた箇所についての原因の説明を返却時に行い,同意を得た。点検および集計作業においては,使用者名を伏せて実施し,個人情報の保護に配慮した。当院倫理委員会の承認を得た。【結果】全84回の点検を実施した車いすの延べ台数は1705台,その内,整備を行った台数は1269台であった。延べ件数は15354件であり,整備を行った件数は1545件であった。全点検件数に対する全整備件数の割合は,10.1%であった。整備を点検項目別の整備件数と割合は車軸で145件(9.4%),空気圧348件(22.5%),ハンドリム95件(6.1%),ブレーキ128件(8.3%),バックサポート76件(4.9%),アームサポート82件(5.3%),フットサポート309件(20.0%),キャスター244件(15.8%),その他118件(7.6%)であった。カイ二乗検定は,全体の整備割合に対して,空気圧,ハンドリム,ブレーキ,バックサポート,アームサポート,フットサポート,キャスター,その他の8項目で有意な差を認め,車軸では有意な差を認めなかった。【考察】要整備の発生割合は空気圧,フットサポート,キャスターの順で多く認めた。先行研究において,タイヤ,アームサポート,ブレーキ,フットサポート,キャスターは異常の頻発箇所として報告されている。本調査の結果からも空気圧,フットサポート,キャスターは異常の頻発箇所であると推察する。車いすの点検を行う際,上記3項目は必須確認項目であると考える。また,安全な車いすを提供するうえで各項目の点検を行うことは責務である。要整備になりやすい箇所では,点検の頻度だけではなく,部品そのものの同規格,同サイズへの交換を委員会内で検討,検証し取り組んでいくことが急務である。本調査から点検頻度の検討と部品交換の検討を対策として委員会に提案し,発生しやすい要整備件数の削減に努めたい。当院で院内スタッフを対象に毎週実施している研修会において,リハビリスタッフのみならず,院内スタッフ全体で要整備件数を削減できるよう啓蒙活動を実施していく。【理学療法学研究としての意義】車いすにおいて要整備になりやすい箇所を認識し対策をたてて,安全な車いすの提供に努める活動は車いすの整備件数を削減させることに繋がり,車いすによるインシデントや駆動のしにくさを防止できる。臨床において車いす調整に携わる機会が多い理学療法士が率先して車いす点検を行うことで,安全な車いすを提供することは理学療法士だからこそ出来る生活支援の視点として重要である。