著者
榎本 知郎 花本 秀子 長戸 康和 松林 清明
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

ヒトを含む霊長類における精子競争の様相を組織学的に探る試みを行った。ゴリラ(N=11)、チンパンジー(11)、オランウータン(6)、ヒト(6)の精巣標本を、オトナの死亡個体から採取した。HE、PAS-ヘマトキシリンで染色したほか、テストステロン免疫染色も行った。その結果、ゴリラは、(1)11個体中6個体で精子形成がみとめられないこと、(2)精子形成が認められる精巣でも、間質が非信に豊富であること、(3)いずれもテストステロン染色によく染まるライディヒ細胞が非常に多く認められた。チンパンジーでは(1)精上皮が非常に厚く、各段階の精子形成細胞が多数あり、成熟期の精子細胞も豊富で、精子形成が非常に活発であること、(2)間質は疎でライディヒ細胞が少ないこと、またオランウータンでは、(1)精子形成は比較的活発であること、(2)間質もかなり豊富であること、(3)精子細胞の先体が大きいこと、などが明らかになった。ゴリラ(N=11)、チンパンジー(N=5)、オランウータン(N=4)、ヒト(N=1)の精巣標本について、精子発生指数(SI)と:減数分裂指数(MI)を算定した。ゴリラ11頭の平均SIは、チンパンジー、オランウータンより有意に低かった(マン-ウィットニー検定)。また、ゴリラの平均MIは、チンパンジー、オランウータンより、有意に低い値を示した。ゴリラは、チンパンジーの40分の1、オランウータンの8分の1の精子しか産生しておらず、またヒトは、ゴリラの6倍、チンパンジーの7分の1の精子を産生していると推定された。