著者
喜始 照宣 長江 侑紀
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.11, pp.189-208, 2017-03

本稿の目的は,下記の2つの問い(RQ)について,長年にわたり多文化保育を行ってきた横浜中華保育園を事例とし,おもに保育者へのインタビュー調査をもとに明らかにすることである。特に本稿では,保育者ストラテジーの観点から,保育者の問題対処の仕方を描き出す。 RQ1:外国につながりのある子どもに関して,現在どのような問題が生じているのか RQ2:保育者たちは,そうした問題に対して,日常的にどのように対処しているのか分析の結果,以下の知見が見出された。第1に,横浜中華保育園では,認可園への移行後,園環境及び子ども・保護者の変化が見られた。子どもや保護者の文化的・経済的背景の変容である。特に幼児クラスでは,新たに中国から来た日本語が分からない子どもが増加していた。第2に,そうした言語に関わる問題に対して,保育者は,「子どもは自然と慣れていく」といった乳幼児観に基づき,過度な援助・介入は行わない,「見守る」基本姿勢をストラテジーとして採用し,子どもの成長・発達,自発的な互助に委ねた対処をしていた。第3に,それと同時に,同僚の保育者や園長,幼児,保護者といった「他者」を資源として活用する「協働ストラテジー」を駆使し,日本語が分からない子どもや保護者への対応という,日常的に生じる問題の解決も行っていた。また,協働ストラテジーは,園内の限られた構造的条件の中で,保育者が自らの目的・目標を達成する上で有効に活用されていることが示された。