著者
倉上 和也 長瀬 輝顕 神宮 彰 和氣 貴祥
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.252-259, 2014 (Released:2014-06-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

アルカリ性薬物の誤飲による咽喉頭食道炎は,粘膜びらん,壊死,瘢痕狭窄などさまざまな病態を呈し,致死的な状況となりうる。アルカリ性薬物誤飲例の報告自体が稀であるが,喉頭蓋脱落を観察した症例は文献的にはない。今回われわれは,95%水酸化カリウム誤飲により生じた腐食性咽喉頭食道炎に対し,長期入院および手術的加療を行い救命し得た症例を経験したので,詳細な咽喉頭所見の経過を含め報告する。症例は39歳男性。飲酒後にアルカリ性パイプ洗浄剤を誤飲し,嘔吐,振戦様痙攣をしているところを家人に発見され,当院急患室へ救急搬送された。声門狭窄は認めなかったものの,中下咽頭,舌根部,披裂部,喉頭蓋に粘膜の腐食性変化を認めた。全身麻酔下に気管切開術を施行し,集中治療室にて人工呼吸管理を行った。喉頭浮腫や粘膜炎は徐々に軽快したものの,第37病日より喉頭蓋の脱落を認め,喉頭蓋はほぼ完全に脱落した。脱落後は,喉頭蓋基部で周囲組織と癒着し,発声および経口摂取が不能な状態になった。第175病日に咽頭喉頭食道摘出術および有茎空腸による再建,永久気管孔形成術を施行した。2年経過した現在,重大な有害事象の出現を認めず,社会復帰し,経過観察中である。