著者
西川 裕作 東田 有智
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.290-296, 2018-10-10 (Released:2018-10-25)
参考文献数
8

アルコールは多くの疾患の発症や増悪に関わっており,呼吸器疾患においても同様である。誤嚥性肺炎や睡眠時無呼吸症候群はその代表的なものであり,慢性的に飲酒を行っている患者においては注意を要する。またあまり認知されていないが,気管支喘息においてもその増悪因子として重要である。アルコール誘発喘息の機序はアセトアルデヒドを酢酸に代謝させるアセトアルデヒドデハイドロゲナーゼ(ALDH)の活性を低下させるALDH2*2遺伝子の存在により血中のアセトアルデヒドの濃度が上昇することにある。アセトアルデヒドには肥満細胞からヒスタミンを遊離させる作用があり,その作用によりヒスタミンの血中濃度が上昇し喘息発作が誘発される。また一部の薬剤や食物の中にはアセトアルデヒドの代謝を阻害するものがある。それらによってもアルコール誘発喘息は促進される。この遺伝子は日本人を含むモンゴロイド人種に多く,白人や黒人にはほとんどないとされる。アルコール誘発喘息の診断にはALDH2*2遺伝子の検査や負荷試験が有用である。その予防にはアルコール含有物質の摂取の回避と薬剤治療としては従来の喘息治療に加え,抗ヒスタミン薬の投与やDSCG(クロモグリク酸ナトリウム)の吸入などが有効とされている。
著者
山口 学 本多 英俊 本多 俊伯 池田 徳彦
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.13-16, 2018-02-10 (Released:2018-02-25)
参考文献数
5

誤嚥予防にはさまざまなものが報告されているが,療養型病床群においてはそれらの対策が十分に行えないのが現状である。われわれは誤嚥予防として黒胡椒に注目した。黒胡椒は咽頭へのサブスタンスPの放出を増加させることにより嚥下反射を改善して誤嚥を予防することが報告されている。今回,黒胡椒そのものを使用して誤嚥リスクを減らし抗菌薬使用および誤嚥性肺炎発症率を低下させられるか検討した。【対象】当院療養型病床群に入院している患者35名のうち32名。【方法】患者を2群に分け,60日ごとに黒胡椒使用群と非使用群を交換して両群に黒胡椒を使用し,120日間での発熱,抗菌薬使用を比較することにより誤嚥性肺炎の発生率を比較した。【結果】期間中に37.5℃以上の発熱を認めた症例は28例で,2日以上の発熱と誤嚥性肺炎を認め抗菌薬を使用した症例は11例であった。黒胡椒を使用した群は発熱例11例で,抗菌薬使用例は2例であり,有意に抗菌薬の使用頻度および日数を抑制した。【結語】黒胡椒は安価かつ容易に療養型病床群での抗菌薬使用を減少させた。
著者
木村 美和子 千原 康裕 二藤 隆春 田山 二朗
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.502-507, 2006 (Released:2006-12-25)
参考文献数
6
被引用文献数
3 2

ムンプスの合併症として,呼吸困難や咽喉頭浮腫は報告が少ない。今回われわれは咽喉頭浮腫を合併したムンプスの2症例を経験したので報告した。 症例は26歳男性と36歳女性。初診時より顎下部耳下部の腫脹,呼吸困難を認め当院救急外来受診,喉頭ファイバースコープにて咽喉頭に浮腫を呈しており入院となった。頸部CTでは,顎下腺,耳下腺とその周囲にびまん性の腫脹を認め,咽喉頭の浮腫状腫脹が著明であった。血液検査でWBC・CRP正常範囲内,血清アミラーゼ高値を認めた。ステロイド投与により呼吸困難は改善し退院した。その後の検査でムンプスウィルスIgM陽性を確認した。 2症例ともステロイド投与で咽喉頭浮腫は軽減し,気管切開を回避することができた。咽喉頭浮腫の原因は,顎下腺とその周囲軟部組織の炎症性浮腫により,二次的に咽喉頭から流出するリンパ管がうっ滞して循環障害を起し,咽喉頭粘膜にうっ血性の浮腫が生じたためと推察した。 咽喉頭浮腫を合併したムンプスの成人例を2症例報告した。耳鼻咽喉科の臨床現場では頸部腫脹と咽喉頭浮腫を合併した症例にしばしば遭遇するが,ムンプスウィルス感染の可能性も鑑別診断の1つにあげる必要があると考えられる。
著者
石橋 淳 木村 百合香 小林 一女
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.219-224, 2019-06-10 (Released:2019-06-25)
参考文献数
13

以前より喉頭の加齢による位置変化が嚥下に与える影響が指摘されている。今回,加齢による安静時の喉頭の位置変化を明らかにすることを目的とし頸部X線側面像を用いた検討を行った。【対象】男性258名,女性268名。【方法】第3頸椎前縁上端から第5頸椎前縁下縁を基準距離(a)として,第3頸椎前縁上端と同レベルの高さから,舌骨下縁までの距離(b),声門前連合までの距離(c),甲状軟骨下縁までの距離(d)を計測し各距離を基準距離で割り相対数値化し性別・年代別にグループ分けを行い各グループ間の数値をStudent-T検定を用いて検討した。【結果】男女間の検討では(c/a),(d/a)で男性が女性よりも有意に低位であった。男性・女性の年代間の比較では(b/a),(c/a),(d/a)のいずれも加齢により延長する傾向があった。男性の年代間の比較で40代と50代の間で,女性の年代間の比較では40代と60代の間で有意に喉頭が低位となった。【結語】喉頭低下は加齢とともに徐々に進行する。特に40代以降で急速に進行する。
著者
村上 正人
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.398-403, 2004 (Released:2007-08-24)
参考文献数
14
被引用文献数
1

人間の感情が動くときに象徴的な咳反応や咳症状が出現するように,咳は必ずしも気道の刺激だけではなく情緒的な刺激によっても生じることがある。いわゆる神経性咳嗽nervous coughは決して多い疾患ではないが,的確な診断と治療がなされないと,改善されぬまま慢性の経過をとりやすい。神経性咳嗽は何らかの心理的機制により,発作性,あるいは持続性に乾性咳嗽が生じるものである。しかし心因性,神経性といいながらよく病歴をとってみるとかつて急性上気道炎,咽喉頭炎や気管支炎に罹患したことが契機になり発症することが多い。長期間持続する慢性咳嗽の鑑別診断は慎重に行い,特に咳喘息との鑑別は重要である。咳反射に対する過敏性を獲得するプロセスに何らかの心理社会的ストレス要因が関与して発症するとされ,ヒステリーによる象徴的な症状(転換症状),内的緊張のはけ口としての咳,緊張時の音声チックと同様なメカニズムなどが考えられている。診断,治療に当たって,bio-psycho-socialな視点からの理解とアプローチが必要である。本症ではしばしば不安障害やうつ状態が合併しており,抗不安薬や抗うつ薬などの神経系作用薬がよく奏効することが多い。心理的要因が症状悪化につながっているときには専門的な心理療法を導入する。
著者
山田 文則
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.212-230, 1959-10-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
15
被引用文献数
5 5

The larygeal, tracheal and syringeal muscles of several birds (Gallus gallus var. Domesticus Brisson, Otus asio Teminck & Schlegel, Melopsittacus undulatus and Corvus levaillantii japonensis) were observed anatomically under binocular microscope, in paying attention to that the tone production of birds are performed not by larynx but by syrinx, and these muscles originate from the sterno-hyoid muscle system. Following results are obtained:-1 The laryngeal muscles are classified in delator and constrictor. The constrictor muscles are different according to the kind of birds, yet M. crico-arytenoideus lateralis, M. cricoideus dorsalis, and M. interarytenoideus are discriminated.2 Gallus gallus var. domesticus Brisson and Otusasio T. & S. make their tracheas move up and downby working M. sterno-trachealis and M. tracheo-lateralis to shut and open the space between the internal and external tympaniformic membrane, and by this movement the tone production and respiration are performed.3 Melopsittacus undulatus are absent of M. sterno-trachealis, but M. tracheo-lateralis, M. tracheo-bronchialis, and M. syringecs contribute to the movement of syrinx.4 Syringeal muscles of Corvus levaillantii japonensis are classified in M. cleido-trachealis, M. tracheo-lateralis, Mm. tracheo-bronchiales, M. tracheo-bronchialis dorsalis brevis, and Mm. syringei.5 The laryngeal muscls are chiefly innervated with glossopharyngeal nerve. The muscles connected with syrinx are controlled doubly by the upper and lower laryngeal branch of the hypoglosso-cervical nerve and the syringeal branch of the recurrent nerve.6 The syringeal branch of the recurrent nerve does not anastomose with the upper laryngeal branch of the hypoglossal nerve, going to among the muscle bundles of the tracheo-laterl muscle, and anastomoses with the branch of the glossopharyngeal nerve at the upper portion of the trachea. I confirmed this in Gallus gallus var. domesticus Brisson, Otus asio T. & S. Melopsittacus undulatus.
著者
小町 太郎 三枝 英人 愛野 威一郎 松岡 智治 粉川 隆行 中村 毅
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.286-291, 2005 (Released:2006-02-17)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

われわれは, 高齢発症の重症筋無力症 (以下MG) による嚥下障害および構音障害を呈した1例を経験した。症例は79歳女性。転倒後から嚥下障害が出現し, 一時改善を繰り返しつつ悪化した。この患者ではMGに典型的な日内変動や易疲労性を認めず, また, 眼瞼下垂などの典型的症状も有していなかった。このため, 診断に苦慮した。しかし, 訓練開始直後は訓練に対する反応性がよいが, その後徐々に悪くなること, 午前中より午後に嚥下訓練に対する反応性が悪いことから, MGが疑われた。そこで, 抗AChR抗体を測定したところ陽性であり, エドロフォニウム2 mg投与後に上記症状は速やかに改善したため, MGと診断できた。最近, 高齢発症の重症筋無力症の存在が注目されており, 注意が必要と考えられた。
著者
吉田 邦仁子 上田 雅代 浅野 純志 福島 一登 丁 剛 小池 忍 大島 渉 日向 誠
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.430-435, 2002 (Released:2007-10-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

われわれは最近1年間に,手術までに時間を要した小児気道異物2症例を経験した。1症例は枝豆誤嚥でX線透過性・舞踏性異物であったが,CTの経時的変化によって局在診断された。他の1症例は明らかな異物誤嚥のエピソードがなかったが,胸部X線にてクリップ誤嚥が診断された。手術までに症例1では誤嚥後9日間,症例2では症状出現後7日間を要した。2症例ともに,全麻下にてventilation bronchoscopeを用いて異物摘出術を施行した。枝豆症例では,膨化・脆弱化し細片化した異物を,吸引操作を行いながら慎重に摘出した。ともに術後経過は良好であった。気道異物は生死に関与する危険性があることを常に自覚して,迅速な対応処置と同時に一般家庭への啓蒙の必要性を再認識することが重要である。
著者
唐帆 健浩
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.396-409, 1999-06-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
40
被引用文献数
10 10

The purpose of this study was to determine the effect of the “chin-down” maneuver on the swallowing function. Ten normal volunteers were examined with videofluorography and manometry in both the neutral and the “chin-down” positions. The effect of this maneuver on the pharyngeal dimensions, hyoid motion, bolus flow, and manometric pressures at the base of tongue (BOT) was evaluated using 5ml of barium.The “chin-down” maneuver significantly decreased the distance between the epiglottic tip and the posterior pharyngeal wall (PPW); the distance between the epiglottis and the arytenoid; the vallecular angle; the duration of the upper esophageal sphincter (UES) opening; and the duration of the anterior hyoid movement. The “chin-down” maneuver increased the epiglotto-tracheal angle; the duration of laryngeal closure; the duration of the BOT-PPW contact; the duration of the hyoid rest period in a maximal excursion; the maximum diameter between the anterior and the posterior wall of the UES; the peak pressure at the BOT; the duration of the pressure wave at the BOT; and the area under the curve of contraction at the BOT.These results show that the “chin-down” maneuver advances airway protection, UES opening and the propelling force at the BOT during swallowing in normal volunteers. This maneuver may have a therapeutic value for treatment of dysphagic patients.

2 0 0 0 OA 頸部の解剖

著者
平野 実
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.528-529, 1987-12-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
2
著者
仙田 里奈 角木 拓也 黒瀬 誠 守本 倫子 高野 賢一
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.228-234, 2023-06-10 (Released:2023-06-10)
参考文献数
11

小児気管切開術は長期の気道・呼吸管理の管理に必須の治療である。経過の中で多様な合併症を引き起こすため,気管切開術の術式や術後の管理においてさまざまな工夫が求められることも多い。また,気管孔閉鎖においては確立されたプロトコルが存在せず各施設の経験に頼られている部分が大きい。周産期・小児医療の発達により今後も小児気管切開患者の増加が見込まれるため,その管理において指標となるデータおよびプロトコルが必要になると考える。今回われわれは,小児気管切開患者の安全な気道管理および気管孔閉鎖の実現を目的とした全国調査を実施した。対象施設202施設中57施設から回答を得た。過去10年間に小児気管切開術を施行している施設は29施設であり,過去1年間に行われた小児気管切開術症例は全196例であった。術式や術前の経過については各施設直近20症例,長期経過における合併症と気管孔閉鎖については過去10年間の症例で検討した。合併症の発症率が成人と比較して多い可能性や,気管孔閉鎖率が1割程度に留まることが明らかとなった。今後は長期管理や気管孔閉鎖についての共通認識を深めることが望まれる。
著者
大島 忠之 三輪 洋人
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.401-408, 2009-10-10 (Released:2009-10-25)
参考文献数
23

胃食道逆流症(GERD)は欧米に多いと言われてきたが,食生活など生活習慣の欧米化,肥満の増加,酸分泌能の増加,Helicobacter pylori感染率の低下などから,わが国でも確実に増加傾向にある。GERDでは,胃から食道への逆流を防ぐ機構あるいは排出する機構が食道運動異常,下部食道括約筋の機械的あるいは機能的異常,食道クリアランス,胃内容の排出遅延などによって障害され,著しく生活の質(QOL)が損なわれている。わが国には非びらん性胃食道逆流症(NERD)や軽症の逆流性食道炎が圧倒的に多く,これら軽症のGERDが重症GERDに進行することは多くない。したがって自ずと治療目標は,自覚症状である胸やけ,呑酸などの症状改善や,これに伴う日常QOLの向上となる。最も有用な治療は胃酸分泌抑制であるが,この薬の効果が少ないときには治療に難渋することも多い。実際,食道粘膜傷害と症状が相関せず,NERDにおける,プロトンポンプ阻害薬(PPI)の効果は50%程度と言われている。近年,GERD治療における漢方薬のエビデンスが得られつつある。六君子湯は,酸分泌を抑制することなく,食道クリアランス,あるいは胃排出能や胃適応性弛緩作用を介してGERD患者,特にNERD患者で症状を改善する可能性が考えられる。
著者
倉上 和也 長瀬 輝顕 神宮 彰 和氣 貴祥
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.252-259, 2014 (Released:2014-06-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

アルカリ性薬物の誤飲による咽喉頭食道炎は,粘膜びらん,壊死,瘢痕狭窄などさまざまな病態を呈し,致死的な状況となりうる。アルカリ性薬物誤飲例の報告自体が稀であるが,喉頭蓋脱落を観察した症例は文献的にはない。今回われわれは,95%水酸化カリウム誤飲により生じた腐食性咽喉頭食道炎に対し,長期入院および手術的加療を行い救命し得た症例を経験したので,詳細な咽喉頭所見の経過を含め報告する。症例は39歳男性。飲酒後にアルカリ性パイプ洗浄剤を誤飲し,嘔吐,振戦様痙攣をしているところを家人に発見され,当院急患室へ救急搬送された。声門狭窄は認めなかったものの,中下咽頭,舌根部,披裂部,喉頭蓋に粘膜の腐食性変化を認めた。全身麻酔下に気管切開術を施行し,集中治療室にて人工呼吸管理を行った。喉頭浮腫や粘膜炎は徐々に軽快したものの,第37病日より喉頭蓋の脱落を認め,喉頭蓋はほぼ完全に脱落した。脱落後は,喉頭蓋基部で周囲組織と癒着し,発声および経口摂取が不能な状態になった。第175病日に咽頭喉頭食道摘出術および有茎空腸による再建,永久気管孔形成術を施行した。2年経過した現在,重大な有害事象の出現を認めず,社会復帰し,経過観察中である。
著者
梅野 博仁 濱川 幸世 権藤 久次郎 白水 英貴 吉田 義一 中島 格
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.285-288, 2002 (Released:2007-10-25)
参考文献数
5
被引用文献数
5 3

成人10名にカプサイシンを10-6 mol/mlに溶解させた蒸留水を口腔内に噴霧し,噴霧前と噴霧後の唾液中に含まれるサブスタンスP(以下SPと省略)の濃度を測定した。同様に,成人10名にカプサイシンを1枚につき6×10-8 mol程度含有した市販のガムを使用して,ガムを噛む前と噛んだ後の唾液中SPの濃度も測定した。その結果,カプサイシン投与後,ガムを噛んだ後,ともに有意な唾液中のSPの上昇を認めた。同様に筋萎縮性側索硬化症,パーキンソン病,眼咽頭型筋ジストロフィー症,ギランバレー症候群,脊髄小脳変性症患者でも,カプサイシン投与でSPが有意に上昇した。したがって,カプサイシン入りガムを噛むことで咀嚼・嚥下の訓練になり,さらに唾液中のSPが上昇することで嚥下反射が起こりやすくなることが期待できる。嚥下訓練にカプサイシン入りガムを用いるのは有用と考えられた。
著者
田中 伸和 江崎 伸一 讃岐 徹治
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.39-45, 2020

<p>小児気管支異物は,急性期症状が見逃された場合,難治性肺炎として治療されることがある。さらに異物反応の慢性化に伴い摘出に難渋する。今回われわれは,滞留期間の違いで治療経過の異なる小児気管支異物の2例を経験した。症例1は1歳2カ月女児。節分豆を誤嚥した直後から24時間以内に診断・摘出し,良好な経過をたどった。症例2は1歳7カ月男児。持続する咳嗽から肺炎を疑われ,近医で2週間治療され,後の病歴聴取からアーモンドチョコレートの誤嚥が契機だったと判明した。泣き止まないことを主訴に総合病院救急外来を受診し胸部CTで縦隔気腫,頸胸部皮下気腫,左主気管支の陰影と左肺野過膨張を認め,気管支異物が疑われ,当院へ救急搬送され緊急手術となった。硬性気管支鏡で異物の同定が困難なため気管切開術を施行した。経気管孔的に鼻咽腔内視鏡を挿入したが,気管内の炎症が強く異物を摘出できなかった。全身管理と抗菌薬による肺炎治療を行い,硬性気管支鏡下で異物を摘出し救命しえた。長期滞留の影響で気管内の炎症が強い場合,複数回の手術も視野に入れた治療選択を検討すべきと考えた。</p>
著者
黒澤 一
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.98-103, 2021-04-10 (Released:2021-04-25)
参考文献数
20

COPDは代表的なたばこ疾患で,知らず知らずのうちに肺機能が低下する。高血圧,糖尿病,心疾患のなかに潜むことがあり,疑わしい症例には呼吸機能検査が必要である。一方,喘息は気道過敏性に抗原,運動,寒冷刺激,微粒子などが加わり,慢性の気道炎症を背景に平滑筋の収縮を伴う気道閉塞をきたす。現在世界中で流行している新型コロナウイルス感染症は,飲酒を伴う懇親会など5つの場面で感染リスクが高まることが指摘され,その重症化にCOPDが重要視され,重症化した患者では血管系の悪化が報告されている。また喘息患者は罹患しにくいという報告があるが,罹患時の重症化が指摘されており,COPD同様に注意が必要である。感染症の重症化を防ぐためには,禁煙のうえCOPDや喘息の治療を適切に行うことと,身体活動や規則正しい生活を維持して気道粘膜の自然免疫を高めることが肝要と考えられる。