著者
長田 瑞恵
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.51, pp.143-157, 2021-03-28

自分の呼称(以下「自称詞」と呼ぶ)は自我の発達を表すものの一つと考えられる (西川,2003)。話し手が使用する自称詞の獲得や変化が相互作用者に影響を与え,それが翻って話し手への聞き手の行動に影響を与えるという双方向的関係が考えられ(e.g., 長田,2010,2013),社会の中で生活する子ども達という観点からも,自称詞の獲得や発達はより詳細な検討が必要である。そこで本研究では,自称詞の獲得及び使い分けの縦断的発達の実態について,幼児期から中学生までを対象に,自我の発達との関連という観点から検討した。その結果,以下の点が明らかとなった。第1 に,幼児期3 年間は三人称を使って自分を呼び表す子どもが圧倒的に多く,その後その割合が減少していくが,中学校になっても一定割合存在し続けることが示された。第2 に,一般的自称詞の使用については,幼児期に顕著に使用者が増えた後,小学校低学年では目立った変化がないが,小学校高学年で再度使用者の増加傾向が示唆され,中学校になるとほぼ全ての子どもが一般的自称詞を使用することが示された。第3 に,自分の呼称を場面や相手によって使い分ける人数は幼児期でのみ違いが見られ,年長児クラスが年中児クラス・年少児クラスのいずれよりも人数が多いことが示された。第4 に,自称詞の獲得と自我の発達との間に関係があることが示されたが,発達段階によって両者の関連の仕方や程度が異なっていた。以上の結果は,これまで縦断的及び広範囲の年齢に亘って検討されることがなかった自称詞の獲得を明らかにしている点,自称詞の獲得と自我の発達との関連性を示した点で意義があると考える。今後の課題として,自称詞の獲得や使い分けの変化と心の理解の発達との関係の検討が挙げられる。
著者
長田瑞恵
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

はじめに 自分の呼称(以下「自称詞」と呼ぶ)は自我の発達を表すものの一つと考えられる (西川,2003)。子どもたちは2歳過ぎから主に自分の愛称(三人称)を名乗って他者との区別を明確にし(西川,2003),3歳頃から三人称で呼ぶのをやめ一人称代名詞を用いるようになる(Wallon,1956/1983)。児童期以降では,相互作用の相手や場面に応じて自称詞の使い分けが行われている。例えば,東京近辺の中高生を対象にした調査では,男子は「オレ」「ぼく」など,女子は「あたし」「わたし」など複数の自称詞を相手に応じて使い分けていた(尾崎,1995)。 このように,自称詞は自我の発達を表すものと捉えられ,その使い分けの変化について若干の研究はあるが,自称詞の使い分けの発達的変化と自我の発達との関連性を直接的に検討した研究はほとんどない。また自称詞には地域性があることも指摘されており,その点も考慮して検討する必要がある。そこで,本研究では,標準語圏,関西方言圏,東北方言圏の高校2年生と大学2年生を対象に,自称詞の使い分けの発達的変化と,自我の3側面(根気我慢・情動抑制・自己主張)の発達との関連について検討を行った。方 法*被験者:標準語圏・東北方言圏・関西方言圏に在住ずる高校2年生と大学2年生(Table 1)。 *材料:インターネットを使用した質問紙法 *手続き:様々な場面を設定して,それぞれで最もよく使用する自称詞を選択してもらった。加えて,自我の発達の指標として自我の3側面(根気我慢・情動抑制・自己主張)に関して役割取得についての理解や認識を問う質問を加えた。結果と考察 自我の3側面(根気我慢・情動抑制・自己主張)を従属変数とした地域(3)×学年(2)×自称詞使い分け有無(2)の反復測定分散分析を行った(Figure 1)。その結果,自我の3側面の主効果(情動抑制>自己主張>根気我慢),使い分け有無の主効果(有群>無群),学年の主効果(大学生>高校生)が示された。また,使い分け有無×学年の交互作用が有意傾向であり,使い分け無群で大学生>高校生の傾向があることが示唆された。 以上の結果から,思春期から青年期にかけては自我の3側面の発達的変化が見られたが,その変化と自称詞を場面に応じて使い分けるか否かが関連することが示唆された。一方で地域差は示されなかった。いずれの地域においても,自称詞の使い分け状況は自我の発達を表す一指標として考えられる可能性が示唆された。しかし,本研究の対象者である高校生と大学生では自称詞の使い分けをしない人数が非常に少なかったために,発達の実相をとらえきれていない可能性があるため,今後の課題として,中学生や小学生を対象とした検討が必要である。付 記 本研究は2016~2018年度科学研究費(基盤研究(C)課題番号16K04267 課題名「自称詞の獲得と使い分けの発達:自己概念と心的用語との関連から」の助成を受けて行われた。
著者
長田 瑞恵
出版者
日本幼稚園協会
雑誌
幼児の教育 (ISSN:02890836)
巻号頁・発行日
vol.108, no.11, pp.46-51, 2009-11-01