著者
平本 真知子 松井 知之 東 善一 瀬尾 和弥 福嶋 秀記 長谷川 敏史 西尾 大地 相馬 寛人 伊藤 盛春 山内 紀子 水嶋 祐史 森原 徹 木田 圭重 堀井 基行 久保 俊一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100563, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】 投球障害のリハビリテーションでは、局所のみならず、全身の評価・アプローチが重要である。投球障害の原因として、身長や関節可動域の低下が報告されているが、成長期である小学生・中学生と高校生における関節可動域の変化については明らかではない。われわれは、投球障害のリハビリテーションを行う上の、小・中・高校生の関節可動域特性を明らかにする目的で、投手に対して上肢・体幹・下肢関節可動域を測定し、比較検討した。【方法】 対象は2008年から2011年にメディカルチェックに参加した京都府下の小・中・高校生投手517例であった。内訳は高校生264例、中学生182例、小学生71例であった。 検討項目は、肩関節2nd外旋および内旋、肩関節3rd内旋、股関節内旋および外旋(90°屈曲位)、SLR、HBD、頚部・胸腰部回旋の各関節角度とし、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会の測定方法に準じて行った。 検者は操作、固定、角度測定、記入を分担し、代償動作に十分注意し、4名1グループで行った。 得られたデータを小・中・高校生の各年代間で比較検討した。検定は、クラスカル・ワーリス検定を用い、事後検定として、多重比較検定(Steel-Dwass法)を用いた。有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は京都府立医科大学倫理委員会の承認を得た。参加者およびチーム責任者に対し、メディカルチェックの意義、重要性の説明を行った。同意を得られた希望者のみを対象とした。【結果】 肩関節2nd外旋では、小学生133.2±12.3度、中学生124.1±11.6度、高校生125.3±9.9度であった。小学生が中・高校生に比べ有意に大きな値であった。 投球側股関節外旋では、小学生62.5±13.1度、中学生56.9±8.4度、高校生56.1±10.1度であり,小学生が中・高校生に比べ有意に大きな値であった。 非投球側股関節内旋では、小学生41.3±12.2度、中学生41.3±13.6度、高校生35.6±12.9度であり,小・中学生が高校生よりも有意に大きい値であった。 投球側SLRでは、小学生59.3±12.1度、中学生58.6±9.1度、高校生53.7±13.9度であった。非投球側SLRでは、小学生59.7±11.0度、中学生58.9±9.5度、高校生54.8±14.8度であった。投球側、非投球側ともに小・中学生が高校生よりも有意に大きい値であった。 投球側HBDでは、小学生6.1±5.3度、中学生10.8±6.0度、高校生14±6.6度であった。非投球側HBDでは、小学生6.3±5.5度、中学生11.3±6.5度、高校生14.2±6.5度であった。投球側・非投球側ともに年代が上がるとともに有意に増加した。 投球側頚部回旋では、小学生83.5±12.6度、中学生85.4±14度、高校生77.9±12.8度であった。非投球側頚部回旋では、小学生83.6±9度、中学生82.5±12.6度、高校生77.3±10度であった。投球側・非投球側ともに小・中学生が高校生に対して有意に大きな値であった。 投球側胸腰部回旋では、小学生46.0±13.4度、中学生47.4±11.9度、高校生50.9±9度であった。非投球側胸腰部回旋では、小学生46.7±12.8度、中学生47.3±12度、高校生52.3±9.2度であった。投球側・非投球側ともに高校生が小・中学生よりも有意に大きな値であった。【考察】 全国的に投球障害の早期発見・治療を目的とした検診やメディカルチェックが行われているが、野球選手の身体特性を検討したメディカルチェックの報告は少ない。 一般健常人は年齢と共に柔軟性が減少すると報告されている。本研究の結果も、年代が上がるにつれ関節可動域は減少する傾向であった。しかし、胸腰部回旋のみ高校生が有意に大きな値であった。投球動作中における体幹機能については,成長とともに、体幹回旋角度が増大する、体幹の回旋が投球スピードに影響を与えるなど多数報告されている。 年代が上がるにつれて、各関節可動域は減少していくが、投球動作に重要な要素である胸腰部回旋角度は増大する傾向であった。投球障害を有する選手へのリハビリテーションを考える上で、各年代の関節可動域特性を理解することは重要である。【理学療法学研究としての意義】 各年代の関節可動域特性が明らかになり,投球障害で受診した選手へのリハビリテーション、投球障害予防におけるスポーツ現場でのコンディショニング指導の基礎的なデータとなりうる。