- 著者
-
長谷川 智史
- 出版者
- 一般社団法人 情報科学技術協会
- 雑誌
- 情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
- 巻号頁・発行日
- vol.73, no.1, pp.1, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)
今月号は学術研究成果の公表媒体の現状と今後の展望を「学術情報流通のあり方」として特集します。情報技術の発達や,グローバル化によって問題が世界中に波及する速度が増す中,科学による問題解決にもスピードアップが求められています。研究成果の公表媒体において現在も学術雑誌は主要な位置を占めていますが,その質を担保する査読制度はスピード,質の面において課題が指摘されるほか,購読・投稿にかかる価格などに関する問題も議論されています。一方で,近年のプレプリントの隆盛,オープンアクセス出版プラットフォームやオープン査読による研究成果公開の試みは,学術雑誌の孕む問題へのアプローチという側面があると考えられ,学術情報流通の多様化を目指した動きとも捉えられます。また,これらの動きを促進するにあたって欠かせない要素となる要因として,多様な研究成果を正しく評価する必要性も指摘されつつあります。そこでこの特集では学術雑誌やプレプリント,オープンアクセス出版プラットフォームなどそれぞれの研究成果公開方法の利点と課題を概観しながら,科学研究が信頼性の確保とスピードアップを両立しつつ発展していくための今後の学術情報流通のあり方を展望したいと思います。まず,同志社大学免許資格課程センターの佐藤翔様には,学術情報流通,主に査読誌の担ってきた機能を実現する方法の多様化について,どのような試みが行われているかという観点から現状をまとめていただきました。京都大学 大学院文学研究科の伊藤憲二様には,科学史の視点から学術雑誌の歴史と,査読制度の発展について解説いただくとともに,現在学術雑誌が抱える課題とその解決方法の可能性について論じていただきました。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の重松麦穂様には,2022年3月に運用が開始された「Jxiv」の事例を通じてプレプリントが学術コミュニケーションにおいて果たすことのできる役割についてご紹介いただきました。また,筑波大学URA研究戦略推進室の森本行人様には国内初のオープンリサーチ出版サービス「筑波大学ゲートウェイ(現Japan Institutional Gateway)」等の事例から研究成果公開の促進をはじめ独自の取り組みをご紹介いただきました。政策研究大学院大学の林隆之様には現在学術雑誌を中心とする学術情報流通の仕組みと密接につながる研究評価指標を改革しようとする動きである「研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)」を,オープンサイエンス推進の動きを交えて解説していただきました。読者の皆様におかれましては,本特集記事を通してそれぞれの学術研究成果の公表媒体がもつ成り立ちの背景や役割を踏まえて,また研究評価改革の動向を含めて今後の学術情報流通のあり方について考える一助にしていただければ幸いです。(会誌編集担当委員:長谷川智史(主査),池田貴儀,小川ゆい,尾城友視,水野澄子)