著者
長谷川 智治
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.67-108, 2012-03-25

数多ある山岳表現をもつ作例の中でも法隆寺・玉虫厨子の山岳に施された表現・技法は特殊であり、類似作例はみられない。だがその全てが独自のもので、他からの影響が皆無であるとは考え難い。本論ではその源流を辿るべく古代中国の山岳表現をもつ作例の観察と読み解きを進めた。その上で玉虫厨子山岳表現の詳細な観察との比較を行った結果、玉虫厨子の山岳はある特定の時代や様式の影響を受けて施工されたのではなく、様々な時代の特徴を内包した復古的とも呼べる表現であることが判明した。そして比較対象として重要な表現をもつ作例が、梁と西魏と云う隣接した時代に確認された。さらに捨身飼虎図は場面の中に枝の折れた竹を含ませることで、場面から場面への時間的推移を表していた。そして物語の舞台である山岳は静から動へと変動していく様を場面順に捉えており、『金光明経』捨身品にある「大地六種震動」の情景が描写されている可能性が示唆された。