- 著者
-
永積 渉
三枝 英人
門園 修
山口 智
小町 太郎
伊藤 裕之
- 出版者
- 日本音声言語医学会
- 雑誌
- 音声言語医学 (ISSN:00302813)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.4, pp.350-356, 2017 (Released:2017-10-20)
- 参考文献数
- 10
誤嚥に伴う頻回の肺炎発症や,吸引回数の過多などの問題は,患者や家族,介護者の負担となる一方,音声言語によるコミュニケーションは,たとえ重度の感覚性失語となって有意味語が使用できない状態に陥ったとしても,感情に伴う発声,咄嗟時の発声などの心情の表出が行えるものであれば,重要な機能として回復,もしくは保存すべきものであるといえる.したがって,音声を永続的に奪う誤嚥防止術を施行することは,たとえその結果,経口摂取が可能となるとしても,嚥下障害に対する治療を徹底的に行っても改善が得られない場合以外には,まず目指すべき望ましい方向性とはいえない.今回,わたしたちは,重度の嚥下障害を伴う感覚性失語症の患者に対して,音声表出および経口摂取の回復を行いえた症例を経験したので,その治療経過を報告したい.症例は48歳女性.1年前,左側中大脳動脈領域の動脈瘤破裂に対してクリッピングを受けるも,その2ヵ月後に施行された頭蓋形成術中に未破裂の小脳動脈瘤が破裂した.これに対して後頭蓋窩開放・減圧術が施行されるも重度の嚥下障害が発症・遷延したため気管切開,胃瘻造設が施行された.その後在宅療養中であったが,終日にわたり頻回な気管内吸引が必要な状態であったため,誤嚥防止術の適応として当科紹介.これに対して,本症例の嚥下障害の病態を解明し,それに対するアプローチを徹底的に行ったところ,気管孔閉鎖が可能となり,さらに経口摂取,音声表出の回復が得られた.