著者
門間 要吉 慶野 征〓 小林 康平
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.81-91, 1991-03-01

(1)本稿はイチゴの養液栽培農家14戸の収益性を実態調査の資料を用いて検討したものである.収益性の高い農家は収穫量が多いのみならず,その多くを市場価格の高い時期に出荷している.逆に収益性の低い農家は収穫量が少いだけでなく,生産費も高く,かつ出荷期は市場価格の低い時期である.(2)イチゴの市場価格は季節別に大幅に変動し,11月末から翌年1月中旬にかけて高く,春に低い.収益性を高める最大の要因は,市場価格の高い時期に収穫量のピークを合わせることである.しかし,11月末から12月に収穫期を合わせるためには,イチゴ苗の花芽分化を8月末から9月に行わなければならない.ところが,この時期は気温が高く,苗の栄養成長の旺盛なときである.したがって,人工的に苗を冷蔵庫に入れ,あるいは根を切断して,花芽分化を促進させることになるが,これが他方,その後の苗の成長に大きく影響し,収穫の時期と量を左右することになる.イチゴ栽培技術の決定的なポイントである.(3)養液栽培は,多額の資本投入によって経営が成立する.したがって,極めて集約的でかつ高収入獲得可能な経営として展開されなければならない.イチゴ養液栽培の経済的安定のためにはまず,増収技術の確立が重要であり,さらに高価格期に大量収穫を実現する技術的対応が欠かせない.そのためには,経営者は,常に養液栽培の基本的理論に立脚した科学的な施設の利用と同時に,イチゴのもつ生理生態上の特性を完全に理解するとともに,この特性を十二分に発現可能な諸施設の整備充実,適確な技術的対応の可能性を確保されなければならない.たとえば,養液調製補給にしても,メーカーの定める基準や手法を尊守して忠実に実践することも重要であろうし,水質・水温もかなり重要な生育安定要因と考えられるので,常に検定を基礎とした調整をおこたらず,生育の充実と促進のための最適条件を確保することが肝要であろう.また,花芽分化促進の技術対応は極めて重要である.その施設の不備などから充分な効果が得られないこともある.現状では農家個々が,思い思いの施設で冷蔵処理が行われているが,これなどは,生産地域における組織化のなかで,最適処理施設を完備して共同利用による処理機能の高度化なども今後の課題である.(4)養液栽培は土耕栽培にはみられない有利な成果が期待される.すなわち,収益性のみでなく,作業管理の側面でも作業の能率化や作業労働強度の軽減に大きな効果を発揮している.したがって,栽培プラントだけではなく,栽培全般の合理化のために必要な諸設備も含めて総合的な施設設備が永続的かつ安定的なイチゴ養液栽培の可能性を保証するものではないだろうか.
著者
磯部 俊彦 吉田 義明 門間 要吉 山田 稔
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

今日、日本農業は過剰生産、価格低下、後継者難という深刻な危機に直面している。これらの問題を、個別農家の対応により解決することは困難である。従って地域農業における早急な土地利用管理システムの構築が必要とされている。このシステムは、個々の農家、集落の生産組織及び農協の相互の協力によって作られるべきである。その場合に各々の構成員が各々の特徴を活かした組織化が計られなければならない。この研究の目的は、各々の産地の実情に即した適切な集団的土地利用管理のあり方を提起することである。このテーマにアプローチするために、我々は愛媛県南予地方の優等ミカン産地及び沖縄県の野菜産地と工芸作物産地を調査した。そして、この問題について資料文献の収集、農家からの面接聞取り調査及び関係者との意見交換を行った。また、関連調査として山梨市のぶどう産地及び茨城の畑作地帯への調査も併せて実施した。以下は、その概要である。ミカン産地では高齢化と価格低下により荒廃園地が増大している。耕作できない農民は親せき又は他の農家に農地を預託する場合もあったが、特筆すべきは有機農法グループ「無茶々園」のメンバーで構成される「ヤング同志会」が耕作不能に陥った農地を管理していたことである。現在は点の存在ではあるが、この地域の集団化の歴史的経験の土台に立脚したものであるだけに将来さらに大きく育っていくであろう。沖縄県では農地相続が分割される場合が多い。しかし多くの相続者は農地を兄弟などに預けて出稼ぎに出るケースが多く、そして退職後に帰郷して農地を返してもらい農耕に従事する。この制度によって彼らの老後の生活も一応保証されるわけである。このような私的所有権の集団化ともいえる制度は、独特な相続制度に由来している。我々は、このような相続制度のあり方が、日本農業革命の鍵を提供しているように思われるのである。