著者
木村 昌美 関 昭夫 前田 英児
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.F0610, 2004

【はじめに】 前腕骨折において,ギプス除去後の上肢全域にわたる腫脹は,理学療法を行う上での阻害因子であり大きな問題点である.今回,前腕骨折(尺骨・橈骨の両骨骨折)の症例に対して高周波治療を行ったところ,上肢,特に前腕部の腫脹が軽減する現象が見られたので,ここに報告する.<BR>【症例】 76歳の女性.平成15年8月16日に転倒し,左前腕両骨末端骨折と診断.約3週間のギプス固定を行った後,同年9月5日より理学療法開始となる.<BR> 開始時より前腕の腫脹が著明で,渦流浴などの温熱療法を行ったが腫脹の変化は見られなかった.3週間後に再評価を行った結果,肩甲帯周囲筋の緊張が高く,特に僧帽筋,菱形筋群に著明であった.<BR>【方法】 高周波治療器はテクノリンク社製スーパーテクトロンHP400を用いた.この機器にはマイナス導子(青導子)とプラス導子(黄導子)がある.導子の装着部位は,左僧帽筋中部線維上に青導子,三角筋中部線維に黄導子と,左菱形筋群に青導子,右菱形筋群に黄導子の計4箇所とした.波形は同機にプリセットされているDモードで,筋のリラクセーションが得られる波形にて施療した.また同機独自のシステムであるハンマーモードを併せて用い,モードは LIGHTにて行った.治療時間は10分間とした.<BR> 腫脹の測定は,前腕の遠位端の最小周径測定部位を,治療の前後にメジャーにて測定した.<BR>【結果】 施療開始初日に測定した前腕部の腫脹は18cmであったが,施療後には17cmに低下.その後は来院時には腫脹の憎悪を認めるも,施療後は16.5cmを示した.健側である右前腕も周径が16.5cmであり,施療開始4日目から施療後は16.5cmを維持.8日後には施療前後とも16.5cmとなった.<BR>【考察】 高周波は深部筋刺激に優れており,低周波や干渉波などに比べて電気刺激が深部に到達しやすく,通電においても皮膚への電気刺激が小さい.筋のリラクセーションを得て,末梢循環を改善するには適していると考え,施療にあたった.<BR> 今回の症例は肩甲帯周囲の筋緊張が亢進しており,長期化する腫脹はこれによる循環不全と推測した.肩甲帯周囲の筋である僧帽筋・回旋腱板・三角筋・菱形筋群は共に筋連結がある事は知られている.今回これらの筋に対して高周波刺激を行った結果,導子をあてた筋群,そして筋連結のある肩甲帯及び上肢全域の筋にリラクセーションが得られたと考えられる.体幹近位の筋にリラクセーションが得られたことにより,末梢循環つまり静脈還流やリンパ還流が改善され,腫脹の軽減が得られたと考えられる.<BR> 今後の課題として,他の症例でも同様の施療を行い,効果の信頼性を探る必要がある.一方でサーモグラフィー等のパラメータを用いて体表面の温度変化を追い,この現象を科学的に捉えてエビデンスを追求していきたいと考える.