著者
島津 貴幸 柴田 哲成 中野 優恵 前田 英児
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101163, 2013

【はじめに、目的】変形性膝関節症(以下:OA) において、大腿脛骨関節(F-T joint)のみでなく膝蓋大腿関節(P-F joint)の重要性について報告が散見される。臨床でも、OAのF-T jointよりP-F joint に問題を抱える症例を経験する。一方、レントゲン画像 (X線) 評価では、関節裂隙の狭小化と骨棘形成の重症度分類,下肢アライメント評価が主に用いられている。そこで今回、変形性膝関節症と診断され膝関節鏡視下術の術前X線を用いて膝関節周囲の骨アライメントについて内側広筋の機能を加え比較・検討したのでここに報告する。 【方法】対象は、平成24年1月から8月までに当院で膝関節鏡視下手術を施行したOA群29膝(女性20名・男性9名、平均年齢60.5±14.7歳)、コントロール群として膝に既往のない当院スタッフ10膝(女性5名・男性5名、平均年齢26.2±2.66歳)を健常群とした。レントゲン評価は、腰野によるOA分類、Femorotibial(FTA)、Q-angle、膝蓋骨の形態の分類(Wiberg)、膝蓋骨高位(Patella height)、滑車面角(Sulcus angle)、適合角(Congruence angle)を計測し健常群と比較した。加えて、超音波にて内側広筋筋腹の収縮前後を計測し除算したものを収縮率とし各々X線との関係性を検討した。統計学的分析では、Mann-Whitney U検定、ピアソンの積率相関係数を用い危険率を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に研究の十分な説明の上、レントゲン画像の使用の同意を得た。【結果】OA分類の内訳はGrade0:27.6%,Grade1:44.8%,Grade2:27.6%だった。Patella heightはOA群1.05±0.14健常群0.95±0.11、Sulcus angleはOA群134.7±6.09°健常群129.2±5.51° 、Congruence angleはOA群20.44±8.99°健常群11.4±3.86°と有意差(p<0.05)がみられた。Q-angle、FTA、Wibergには有意差はみられなかった。内側広筋の収縮率と比較するとPatella heightとの間に有意な相関(r=-0.49、p<0.05)がみられた。【考察】今回、初期OAのX線ではF-T jointよりP-F jointに有意差がみられ、パテラアライメントに問題を抽出しやすいと示唆された。特に、Patella heightでは内側広筋の収縮が起こりにくい結果となった。OAは内側広筋機能不全を伴い大腿直筋・外側広筋・腸脛靭帯の短縮または過剰収縮が起こると報告があり、膝蓋骨の位置を構成する組織として大腿四頭筋・膝蓋靭帯・膝蓋大腿靭帯・半月大腿靭帯・腸脛靭帯とされている。今回の結果から、従来軽視されていたX線でのパテラアライメント評価が、筋・靭帯の異常の指標の一つとなると考えられる。今後、パテラ位置の評価から運動療法の効果判定まで一連しての研究を行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究により初期OAのレントゲン画像上、膝関節周囲の骨アライメントはP-F jointに異常所見を抽出されやすいことが示唆された。このことから、パテラの位置の確認が一評価として重要であり、考慮した運動療法のプログラム立案が必要だと考える。
著者
木村 昌美 関 昭夫 前田 英児
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.F0610, 2004

【はじめに】 前腕骨折において,ギプス除去後の上肢全域にわたる腫脹は,理学療法を行う上での阻害因子であり大きな問題点である.今回,前腕骨折(尺骨・橈骨の両骨骨折)の症例に対して高周波治療を行ったところ,上肢,特に前腕部の腫脹が軽減する現象が見られたので,ここに報告する.<BR>【症例】 76歳の女性.平成15年8月16日に転倒し,左前腕両骨末端骨折と診断.約3週間のギプス固定を行った後,同年9月5日より理学療法開始となる.<BR> 開始時より前腕の腫脹が著明で,渦流浴などの温熱療法を行ったが腫脹の変化は見られなかった.3週間後に再評価を行った結果,肩甲帯周囲筋の緊張が高く,特に僧帽筋,菱形筋群に著明であった.<BR>【方法】 高周波治療器はテクノリンク社製スーパーテクトロンHP400を用いた.この機器にはマイナス導子(青導子)とプラス導子(黄導子)がある.導子の装着部位は,左僧帽筋中部線維上に青導子,三角筋中部線維に黄導子と,左菱形筋群に青導子,右菱形筋群に黄導子の計4箇所とした.波形は同機にプリセットされているDモードで,筋のリラクセーションが得られる波形にて施療した.また同機独自のシステムであるハンマーモードを併せて用い,モードは LIGHTにて行った.治療時間は10分間とした.<BR> 腫脹の測定は,前腕の遠位端の最小周径測定部位を,治療の前後にメジャーにて測定した.<BR>【結果】 施療開始初日に測定した前腕部の腫脹は18cmであったが,施療後には17cmに低下.その後は来院時には腫脹の憎悪を認めるも,施療後は16.5cmを示した.健側である右前腕も周径が16.5cmであり,施療開始4日目から施療後は16.5cmを維持.8日後には施療前後とも16.5cmとなった.<BR>【考察】 高周波は深部筋刺激に優れており,低周波や干渉波などに比べて電気刺激が深部に到達しやすく,通電においても皮膚への電気刺激が小さい.筋のリラクセーションを得て,末梢循環を改善するには適していると考え,施療にあたった.<BR> 今回の症例は肩甲帯周囲の筋緊張が亢進しており,長期化する腫脹はこれによる循環不全と推測した.肩甲帯周囲の筋である僧帽筋・回旋腱板・三角筋・菱形筋群は共に筋連結がある事は知られている.今回これらの筋に対して高周波刺激を行った結果,導子をあてた筋群,そして筋連結のある肩甲帯及び上肢全域の筋にリラクセーションが得られたと考えられる.体幹近位の筋にリラクセーションが得られたことにより,末梢循環つまり静脈還流やリンパ還流が改善され,腫脹の軽減が得られたと考えられる.<BR> 今後の課題として,他の症例でも同様の施療を行い,効果の信頼性を探る必要がある.一方でサーモグラフィー等のパラメータを用いて体表面の温度変化を追い,この現象を科学的に捉えてエビデンスを追求していきたいと考える.
著者
川崎 洋平 前田 英児
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.97, 2011 (Released:2012-03-28)

【はじめに】 長期的な松葉杖歩行は、荷重を受ける上肢へのストレスにより肩・頸部痛を生じ、ADLにおける問題や、QOL低下を生じることがある。筆者もその経験者であり、松葉杖歩行による、肩・頚部痛への問題を感じていた中、大腿骨頚部骨折後に荷重制限を必要とし筆者とよく似た症状を訴える患者を担当した。 本症例を通して、松葉杖歩行により二次的に生じる肩・頚部の痛みに関して検討したので文献的考察を含めて報告する。【症例紹介】 50歳代女性。H23.1.9交通事故により受傷、診断名は右大腿骨頚部骨折(H23.1.11骨接合術施行Twin hook +CCS)。術後6週間まで完全免荷期間であり、当院入院初期(H23.2.8)より移動手段は主に松葉杖歩行であった。 入院当初より頚部から右肩にかけて倦怠感を訴えており、肩甲帯アライメントは右肩甲骨が1.5横指下制。右肩甲挙筋に圧痛、頚部右回旋時に右頚部に運動時痛あり、右側への起き上がり時に痛みを訴えることがあった。 なお、ここで使用する情報に関してはヘルシンキ宣言に基づき、発表することに同意を得た。【考察】 市橋らは、松葉杖歩行による肩周囲の痛みに対しての胸鎖関節の関わりとその治療効果について研究を行っている。市橋らは松葉杖からかかる荷重より、胸鎖関節が荷重関節となり、関節機能異常を起こすことに着目しているが、胸鎖関節だけでのアプローチでは痛みが完全に消失しなかったことを報告している。 本症例の場合、頚部から右肩にかけての倦怠感を訴えている。これは、完全免荷での松葉杖歩行において、右側下肢の立脚相にあたる時期では、両松葉杖支持であっても右側上肢により強い荷重がかかることが予測される。この荷重に耐えるため、右側の小胸筋、広背筋、僧帽筋下部繊維といった肩甲骨下制筋群が過剰な筋収縮を引き起こし、二次的に右肩甲骨が1.5横指下制するというアライメント異常が生じたものと考えた。 肩甲挙筋の圧痛・頚部の運動時痛に関しては、上記の理由により、相対的に持続的な伸張ストレスと遠心性収縮を引き起こし、筋スパズムが生じたと考える。そのため、第1~4頚椎の横突起に起始をもつ肩甲挙筋のスパズムが、頚部右回旋時に頚椎関節面上の滑りを阻害し、運動時痛を引き起こしていたと考える。【考察に基づいたアプローチ】 本症例に対してのアプローチとして肩甲骨下制筋群のストレッチを指導したところ、頚部の運動時痛、肩甲挙筋の圧痛に徐々に改善がみられた。全荷重(術後9週)時期には肩甲骨のアライメントに左右差はなくなり、肩周囲の倦怠感・頚部運動時痛の訴えはなくなった。【結語】 本症例を通して、松葉杖歩行では歩行の安全性や安定性だけでなく、二次的に生じる肩・頚部の痛みについて全般的なアセスメント、アプローチ、メンテナンスを行っていく重要性を感じた。