- 著者
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安成 哲三
関 祐治
- 出版者
- 公益社団法人 日本気象学会
- 雑誌
- 気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.1, pp.177-189, 1992
- 被引用文献数
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ENSOの時間スケールの地球気候システムの年々変動に果たすアジアモンスーンの役割を、アジアの夏のモンスーン、熱帯太平洋の大気℃海洋結合系及び中緯度の偏西風レジームの間の統計的、力学的な関係を調べることにより、考察した。<br>アジアモンスーンは、熱帯太平洋域での大気・海洋結合系と密接にリンクしており、モンスーン/大気・海洋結合系(略して、MAOSと仮称)とも呼べる一つのシステムをなしていることが明らかとなっている(Yasunari,1990a)。このMAOSは、準2年周期の振動特性を持っており、ある偏差状態は、アジアの夏のモンスーン頃から始まり、約1年持続するという季節性を示す(Yasunari,1991)。<br>このMAOSの偏差状態は、亜熱帯高気圧の強弱やロスビー波の伝播という機構を通して、北太平洋の亜熱帯・中緯度の夏から秋にかけての大気循環に、大きな影響を与えていることがわかった。即ち、モンスーンの弱い(強い)年には、(逆)PNAパターンが卓越する。そして、引き続く冬の半球スケールの偏西風循環は、この秋の大気循環の偏差が初期条件となったような波数1または2のパターンが卓越する。即ち、PNAパターンにより、北米東岸あるいは極東のトラフが発達し、ユーラシア大陸上はより帯状流的な流れのパターンとなる。反対に、逆PNAパターンでは、北太平洋から北米域がより帯状流的となる一方、ユーラシア大陸上のトラフが発達しやすくなる。<br>ユーラシア大陸上のトラフの発達・未発達は、さらに、そこでの冬から春の積雪面積の偏差の形成という物理過程を通して、次の夏のアジアモンスーンの偏差に影響することが示された。即ち、MAOSと偏西風レジームが結合したこの気候システムでは、弱い(強い)夏のモンスーンの後の秋には、(逆)PNAパターンが持続し、続く冬にはユーラシア大陸上に少(多)雪をもたらす循環場が卓越することにより、次の夏のモンスーンは、強い(弱い)状態になるという、2年振動的傾向を持つことがしめされた。このように、MAOSと中・高緯度の偏西風レジームを含む気候システムの準2年振動的変動の機構は、アジアモンスーンを媒介とした、熱帯と中・高緯度のあいだの、季節を違えた相互作用によることが強く示唆される。<br>さらに、現実のより非定常的なシステムの振る舞いと、ENSOのように上記の準2年振動が増幅された状態の物理的な理解には、ENSOとは全く独立な振動系として指摘されている北大西洋振動(NAO)の、このシステムへのストカスティックな強制が非常に重要であることを示唆する観測的事実も提示された。