著者
安成 哲三 関 祐治
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.177-189, 1992
被引用文献数
104

ENSOの時間スケールの地球気候システムの年々変動に果たすアジアモンスーンの役割を、アジアの夏のモンスーン、熱帯太平洋の大気℃海洋結合系及び中緯度の偏西風レジームの間の統計的、力学的な関係を調べることにより、考察した。<br>アジアモンスーンは、熱帯太平洋域での大気・海洋結合系と密接にリンクしており、モンスーン/大気・海洋結合系(略して、MAOSと仮称)とも呼べる一つのシステムをなしていることが明らかとなっている(Yasunari,1990a)。このMAOSは、準2年周期の振動特性を持っており、ある偏差状態は、アジアの夏のモンスーン頃から始まり、約1年持続するという季節性を示す(Yasunari,1991)。<br>このMAOSの偏差状態は、亜熱帯高気圧の強弱やロスビー波の伝播という機構を通して、北太平洋の亜熱帯・中緯度の夏から秋にかけての大気循環に、大きな影響を与えていることがわかった。即ち、モンスーンの弱い(強い)年には、(逆)PNAパターンが卓越する。そして、引き続く冬の半球スケールの偏西風循環は、この秋の大気循環の偏差が初期条件となったような波数1または2のパターンが卓越する。即ち、PNAパターンにより、北米東岸あるいは極東のトラフが発達し、ユーラシア大陸上はより帯状流的な流れのパターンとなる。反対に、逆PNAパターンでは、北太平洋から北米域がより帯状流的となる一方、ユーラシア大陸上のトラフが発達しやすくなる。<br>ユーラシア大陸上のトラフの発達・未発達は、さらに、そこでの冬から春の積雪面積の偏差の形成という物理過程を通して、次の夏のアジアモンスーンの偏差に影響することが示された。即ち、MAOSと偏西風レジームが結合したこの気候システムでは、弱い(強い)夏のモンスーンの後の秋には、(逆)PNAパターンが持続し、続く冬にはユーラシア大陸上に少(多)雪をもたらす循環場が卓越することにより、次の夏のモンスーンは、強い(弱い)状態になるという、2年振動的傾向を持つことがしめされた。このように、MAOSと中・高緯度の偏西風レジームを含む気候システムの準2年振動的変動の機構は、アジアモンスーンを媒介とした、熱帯と中・高緯度のあいだの、季節を違えた相互作用によることが強く示唆される。<br>さらに、現実のより非定常的なシステムの振る舞いと、ENSOのように上記の準2年振動が増幅された状態の物理的な理解には、ENSOとは全く独立な振動系として指摘されている北大西洋振動(NAO)の、このシステムへのストカスティックな強制が非常に重要であることを示唆する観測的事実も提示された。
著者
青木 正敏 千村 隆宏 石井 健一 開發 一郎 倉内 隆 虫明 功臣 仲江川 敏之 大手 信人 ポルサン パンヤ セマー スティーブ 杉田 倫明 田中 克典 塚本 修 安成 哲三
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.39-60, 1998-01-05
参考文献数
23
被引用文献数
6 7

アジアモンスーンエネルギー水循環観測研究計画(GAME)の予備的な観測が,地表面フラックスと土壌水分を測定するためのプロトタイプ自動気象ステーションの性能の評価といくつかのフラックス測定法の相互比較を目的に1996年の夏,タイ国スコタイ付近において行われた.使用された3つの観測システムで得られたデータに渦相関法,バンドパスコバリアンス法,ボーエン比法,プロファイル法,そしてバルク法を適用することで地表面フラックスが得られた.乱流統計量やフラックスの相互比較の結果,統計量そのものは正確に得られているものの,潜熱フラックス評価のためのバンドパスコバリアンス法のアルゴリズムには改良の余地があることが示された.また,熱収支的な方法を利用する場合,水田の水体の貯熱量変化の正確な評価が重要であることがわかった.全体としてステーションは短期間の高温度高湿度下の運用に満足のいくものであったが,長期運用のためにはこの地域特有の強い雨に対する備えが必要であることがわかった.
著者
安成 哲三 田 少奮
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.161-169, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
11
被引用文献数
3 4

中華人民共和国の雲南省全域における寒波の時空間構造を,28年間 (1958~1987) の冬 (12, 1, 2月)の月平均気温偏差に主成分分析の手法を適用することにより調べた。また,卓越する寒波のモードが,中国全域に影響を及ぼす寒波の卓越モードと,どのような関係にあるかを,中国全土160地点の同じデータの主成分分析の結果と比較することにより,考察した。その結果,雲南省全域で最も卓越する寒波の型は,より巨視的にみると,チベット高原から雲貴高原,さらに華南南部にかけての山岳・丘陵地にのみ集中して襲来する寒波(雲南モード)に対応していること,これに対し,長江の中・下流を中心として中国平原部全域に最も卓越する寒波(平原モード)の影響は,雲南省では比較的小さく,よりローカルであることがわかった。雲南モードの寒波は,チベット高原から吹き降りて来る寒気団と,高原北(東)縁を地形に沿って流れ降りて来る沿岸ケルヴィン波的な寒気団の振舞いが重要であることも示唆された。 これら二つの寒波のモードに対応する大規模循環場を,北半球全域の500mb高度偏差と,地上気圧偏差の合成図手法により,調べた。その結果,雲南モードは,偏西風の遙か風上側である,ユーラシア大陸西部と北大西洋からグリーンランド付近での循環場の偏差と密接に関連していること,これに対し,平原モードは,中国北東方のシベリア中・東部での低指数型循環と寒気団の南下に,より直接的に対応していることが明かとなった。
著者
谷田貝 亜紀代 安成 哲三
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.799-815, 1998-10-25 (Released:2008-01-31)
参考文献数
27
被引用文献数
34 45

ユーラシア大陸内陸の乾燥地域周辺は、砂漠化の問題が生じている地域であり、それらの地域の水循環の変動を、全球、大陸スケールの気候変動とあわせて明らかにすることは不可欠である。内陸の乾燥地域においても、夏季にしばしば強い降水がみられるが、それに関連する水蒸気輸送場は、若干の事例解析があるのみで、気候変動と関連づけて研究した例はほとんどない。そこで、本研究はまず、ユーラシア大陸内陸の乾燥地域周辺における夏季の水蒸気輸送とその収束発散場をヨーロッパ中期予測センター(ECMWF)の再解析データを5年間(1980-1984年)について使用して調べた。夏季平均の鉛直積分された水蒸気フラックス場は、モンゴルと中国北部には北西方向からの水蒸気が輸送されることを示す。平均場では、これらの地域の水蒸気源は西シベリアと、さらにその西方向である。大陸のうち最も乾燥したタクラマカン砂漠への、対流圏下層の水蒸気輸送場をみると、この地域の北西方向からの水蒸気が天山山脈の東側をまわりこむように水蒸気が輸送されていることがわかった。次にタクラマカン砂漠の降水と日平均水蒸気輸送場の関係を統計的に調べた。タクラマカン砂漠周辺の全層水蒸気フラックス場をクラスター分析により、まず8パターンに分類した。次に、日降水量と大気循環場をこれらのクラスターごとに合成した。全体の約9割は、平均場に似て、北西からの輸送に関係したパターンであり、このケースの場合、上空にトラフが存在する時に降雨がみられる。しかし、時折、チベット高原を越えて南から水蒸気が流入し、同時にタクラマカン東部(チベット高原の北東側)の下層で東から水蒸気が入り込むことがあり、このパターンはタクラマカンの強い降水と関係している。大気循環場の特徴として、500hPa等圧面高度の合成図をみると、南西方向に深く伸びたトラフがタクラマカンの北側に出現し、これと同時に中央アジアではリッジが現れる。東風の見られるタクラマカン東部には下層に低気圧が存在する。このケースは、全体の10%以下であるが、出現は多雨年に偏り、多雨年(1981, 1984)の夏季降水量の約半分がこのような循環場でもたらされている。
著者
谷田貝 亜紀代 安成 哲三
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.909-923, 1995-10-25 (Released:2008-01-31)
参考文献数
32
被引用文献数
63 78

中国とモンゴルの乾燥・半乾燥地域における夏季降水量の経年変動を解析した。回転主成分分析の手法を夏李(6-8月)降水量時系列(1951-1990年)に適用し、その経年変動特性により、対象地域を次の5地域に区分することが出来た。I)タクラマカン砂漠、II)黄土高原、III)中国華北~モンゴル中・南東部、IV)天山山脈の北側、V)モンゴル北部。地域III)の代表的な時系列は、1955年以降の降水量の有意な減少傾向を示した。次に、対象地域の降水量の経年変動とアジアモンスーン活動との関連を調べるために、インド総降水量資料とこれらの地域の降水量変動との関係をモンスーン期の合計降水量についてだけでなく、夏季の各月について調べた。その結果、地域I)、II)の代表時系列はインド総降水量と、それぞれ負、正の相関が見られたことから、ここではこの2地域の夏季降水量の経年変動と大気大循環場との関連を、北半球の100hPa、500hPa高度及び地上気圧の偏差を使用して解析した。その結果、地域I)(タクラマカン砂漠)の夏季降水量の経年変動は、偏西風循環の風上側(大西洋~ユーラシア大陸)の偏差と関係し、多雨年にはトラフが90゜E付近に存在すること、また、チベット高気圧が多(小)雨年にはその東側で強く(弱く)なることがわかった。地域I)の6、7月の降水量はインド総降水量と負相関が見られた。この両地域の夏季降水量の経年変動の関係は中央アジア周辺の比較的局地的な循環場を介在していることが示唆された。一方、地域II)(黄土高原)の2-3年周期を呈する時系列は、6-9月の各月においてインド総降水量と正相関が見られた。対応する大循環場の変動は、太平洋高気圧、チベット高気圧、イラン周辺の地上気圧に見られた。これらは地域II)の夏季降水量の経年変動が、よりグローバルな、モンスーンに伴う大気海洋相互作用と密接な関わりがあることを示唆している。
著者
安成 哲三
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会・京都大学ブータン友好プログラム・人間文化研究機構 総合地球環境学研究所「高所プロジェクト」
雑誌
ヒマラヤ学誌 : Himalayan Study Monographs (ISSN:09148620)
巻号頁・発行日
no.14, pp.19-38, 2013-03-20

本稿では第三紀末から第四紀にかけてのヒマラヤ・チベット山塊の上昇と, それに伴う気候・生態系変化が人類の起源と進化にどう影響を与えてきたかを, 最近30年の地球科学, 人類学の研究をレビューしつつ, 考察を試みた. チベット・ヒマラヤ山塊の上昇は, 第三紀末からアジアモンスーン気候と西南アジアから北アフリカにかけての乾燥気候を強化していった. 特に5-10Ma(Ma: 百万年前)頃の, 東アフリカの大地溝帯の形成による赤道東アフリカの気候の乾燥化と草原生態系の拡大は, 原人類の起源に重要な意味を持っていることが明らかとなった. チベット・ヒマラヤ山塊の上昇に伴うモンスーン降水の増加は山塊の風化・侵食過程を通して大気中のCO[2] 濃度減少を引き起こし, 地球気候を第三紀から第四紀の寒冷な氷河時代へと導入していった. CO[2] 濃度の低い大気環境によるC[4]植物の草原の拡大は有蹄類の動物の多様な進化を促し, このことは原人類の進化にも大きく影響したと考えられる. 第四紀は氷床の拡大縮小を伴う4万年から10万年周期の激しい気候変動の時代となったが, チベット高原における雪氷の拡大縮小は, 気候変動を増幅する役割を持っていた可能性が高い. 氷期サイクルに伴い東アフリカの湿潤・乾燥気候の分布が大きく変動したことは, 原人類の更なる進化とユーラシアへの移動を促す重要な契機となった. 第四紀の寒冷な気候とアジアモンスーンの弱化に伴う中央アジア・西南アジア地域の広大な草原・ステップの形成は, 多様な草食性動物の棲息の場となったが, この地域に移動した新人類の進化にとって, これらの草食性動物との共存関係は重要な意味を持つと考えられる. 最終氷期が終わった10Ka(Ka:千年前)1万年前以降, 温暖で比較的安定な完新世の気候の下で, チベット・ヒマラヤ山塊の東と西で, 人類はイネと麦類を中心とする農耕を始めて新たな文明の時代に入ったが, 同時に地球環境を人類自らが大きく変化させるという新たな問題を生み出す時代の始まりにもなっている.
著者
安成 哲三
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会・京都大学ブータン友好プログラム・人間文化研究機構 総合地球環境学研究所「高所プロジェクト」
雑誌
ヒマラヤ学誌 : Himalayan Study Monographs (ISSN:09148620)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.19-38, 2013-03-20

本稿では第三紀末から第四紀にかけてのヒマラヤ・チベット山塊の上昇と, それに伴う気候・生態系変化が人類の起源と進化にどう影響を与えてきたかを, 最近30年の地球科学, 人類学の研究をレビューしつつ, 考察を試みた. チベット・ヒマラヤ山塊の上昇は, 第三紀末からアジアモンスーン気候と西南アジアから北アフリカにかけての乾燥気候を強化していった. 特に5-10Ma(Ma: 百万年前)頃の, 東アフリカの大地溝帯の形成による赤道東アフリカの気候の乾燥化と草原生態系の拡大は, 原人類の起源に重要な意味を持っていることが明らかとなった. チベット・ヒマラヤ山塊の上昇に伴うモンスーン降水の増加は山塊の風化・侵食過程を通して大気中のCO[2] 濃度減少を引き起こし, 地球気候を第三紀から第四紀の寒冷な氷河時代へと導入していった. CO[2] 濃度の低い大気環境によるC[4]植物の草原の拡大は有蹄類の動物の多様な進化を促し, このことは原人類の進化にも大きく影響したと考えられる. 第四紀は氷床の拡大縮小を伴う4万年から10万年周期の激しい気候変動の時代となったが, チベット高原における雪氷の拡大縮小は, 気候変動を増幅する役割を持っていた可能性が高い. 氷期サイクルに伴い東アフリカの湿潤・乾燥気候の分布が大きく変動したことは, 原人類の更なる進化とユーラシアへの移動を促す重要な契機となった. 第四紀の寒冷な気候とアジアモンスーンの弱化に伴う中央アジア・西南アジア地域の広大な草原・ステップの形成は, 多様な草食性動物の棲息の場となったが, この地域に移動した新人類の進化にとって, これらの草食性動物との共存関係は重要な意味を持つと考えられる. 最終氷期が終わった10Ka(Ka:千年前)1万年前以降, 温暖で比較的安定な完新世の気候の下で, チベット・ヒマラヤ山塊の東と西で, 人類はイネと麦類を中心とする農耕を始めて新たな文明の時代に入ったが, 同時に地球環境を人類自らが大きく変化させるという新たな問題を生み出す時代の始まりにもなっている.
著者
植田 宏昭 安成 哲三 川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.795-809, 1995-08-25
参考文献数
15
被引用文献数
13

西太平洋上の大規模対流活動と風の場の季節変化を、静止気象衛星の赤外黒体輻射温度(T_<BB>)とヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)全球客観解析データを用いて、1980年から89年の10年間にわたり解析した。特に、本研究では西太平洋上20゜N,150゜E付近の大規模対流活動が、7月下旬に急激に北上することを記載する。活発化した対流活動はそこに強い低気圧性循環を作り出し、その低気圧の南側に西風、北側に東風を引き起こす。この強い低気圧性循環は西部熱帯西太平洋上に忽然と出現する。しかし、同時期の110゜E以西のモンスーン西風気流は加速しておらず、この急激な変化はアジアモンスーンシステムとは切り離されていることを示唆している。更に対流活発域の北側には高気圧性循環が生じ、それは日本付近の梅雨明けに対応している。また大規模対流活動の急激な北上は熱帯性低気圧活動に関連していることが明かになった。中緯度では、7月下旬の大規模対流活動の急激な北上前後のジオポテンシャル高度パターンから、鉛直方向に等価順圧構造になっている事が分かり、20゜N,140゜E(西太平洋)付近の対流活発域から、北方の60゜N,180゜E(べーリング海)に向かってロスビー波が北東方向に伝播していることが示された。この他20゜N,150゜Eの海面水温(SST)は、急激な対流活発化の約20日前の7月上旬に、29℃を越える高温に達していることを示した。この北東方向に拡大する温かいSST領域は、7月下旬の対流活発化と密接に関係していることが推察される。この結果より、SSTの上昇は対流活動の急激な北上に対して十分条件ではないが、重要な必要条件の一つであると考えられる。
著者
植田 宏昭 安成 哲三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.199-215, 1998-03-31
参考文献数
14
被引用文献数
4

気候平均場に見られる150°Eでの7月下旬のconvection jump(対流活動の突然の強化)と梅雨明けとの関係を、1993/94年の日本付近の冷夏/暑夏時について調べた。Convection jumpを左右する25°N、150°E付近の7月上中旬の海面水温は、1993(94)年は29℃以下(以上)であった。このため1993年は顕著なconvection jumpが見られず、梅雨明けも明瞭ではない。一方1994年は7月上旬のフィリピン周辺の対流強化による熱源の影響が中緯度偏西風帯に及ぶことにより定常ロスビー波応答が生じ、同時に西南日本で梅雨明けした。続いて7月中旬のconvection jumpによって関東以北も梅雨明けが引き起こされ、偏西風の北上によって定常ロスビー波が消滅した。Convection jump領域を含む盛夏期の20°N付近での対流活動は、1994年は1993年に比べ相対的に活発で、これに伴う上昇流が日本上空で収束していた。
著者
日下 博幸 西森 基貴 安成 哲三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.369-378, 1998-05-31
被引用文献数
9

最高および最低気温偏差の季節変化パターンに着目した主成分分析を, 日本の24観測点について個別に行った.その結果に基づき, 比較観測点を用いることなく, 1観測点のデータから都市化に伴う過去90年間の気温上昇量を推定した.最低気温の第1主成分は, 冬季に大きな値を持ち, 年間を通して全て同符号となる季節変化パターンである.固有ベクトルとスコア時系列から推定された最低気温偏差の時系列(T′_min)には, 昇温のトレンドが見られる.また, この時系列のトレンド(ΔT′_min)と観測点のある都市の人口の対数との間には, 正の相関(相関係数0.76)がある.以上のこと等から, 第1主成分の季節変化パターンは主として都市気候のパターンであり, 時系列のトレンドは都市化に伴う気温上昇率であると推定された.また, このトレンドは0.4〜3.7℃/100年であり, 多くの地点で1℃/100年を越えている.一方, 日本における過去90年間の最低気温の上昇に対して, バックグラウンドの気候変化の影響は0〜1℃/100年程度であり, 昇温の要因として都市化の影響を無視できない大きさであることが明らかとなった.一方, 最高気温の季節変化パターンは最低気温と異なる.推定された最高気温偏差の時系列(T′_max)には最低気温のそれほど明瞭なトレンドは見られない.この結果, 過去90年間の最高気温の変動には, 都市化の影響が顕著に現れていないことが確認された.
著者
里村 雄彦 林 泰一 安成 哲三 松本 淳 寺尾 徹 上野 健一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

2004年7月および2005年3月の2回にわたりカトマンズ(ネパール)のネパール水文気象局本局を訪問し,既存の気象・気候データの所在,保存方法・形態,デジタル化の手順や収集の可能性について調査を行った。また,2004年10月7日には,第1回の現地調査の結果をふまえてアクロス福岡にて国内打合せ会議を開き,第2回現地調査項目および将来の国際共同研究計画への戦略について議論を行った。これらの内容は以下の通り:1)国内会議・南アジア(特にネパール・バングラとインド北部)における雨とそれに関わる大気状態の観測に取り組む必要がある。世界的に見て顕著な降水がある領域であるが、観測・データの制約、研究の少なさのために、まだ基本的な事実自体が十分に解明されていない状況にある。改めて降水の実態把握にこだわる意味は大きい。また,降水量予測もターゲットにするべきであろう。・新しい測器・データの利用と、特別観測、更た新しい研究ツールとしての数値モデルを有効に活用することを通じて、南アジアの降水メカニズムに関する知見を深めていくことを重視すべきである。2)現地調査・地上観測点は多いが,高層観測は全く行っていない。24時間観測をしているのはカトマンズ空港1地点のみであり,他は夜間の観測を行っていない。多くの観測点は日平均値,最大・最小のみの報告を行っている。・最新の自動気象観測装置が数点入っているが、試験導入という位置づけであり,機器の維持・整備の状況に差が大きい。カトマンズ市内の機器を調査した結果,カトマンズ空港以外のデータは研究に利用できない可能性が高い。・高層観測を今後の共同研究で実施する重要度は大きいが,技術的な困難も大きい。・DHMのShrestha長官と面談し、低緯度モンスーン地帯の急峻山脈南山麓という世界的に特殊な環境に起因する気象擾乱や災害について情報交換を行った。また、今後の国際共同研究に向けて具体的な観測項目、そのための事務的な準備などについても打ち合わせた。なお,これらの結果をふまえて実際の国際共同研究を行うため,平成17年度科学研究費基盤Aの申請を行った。
著者
冨田 智彦 安成 哲三 斉藤 和之 吉兼 隆生 日下 博幸 安成 哲三 斉藤 和之 吉兼 隆生 日下 博幸 山浦 剛 橋本 哲宏 坂元 勇一
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究計画では、我が国の夏季水資源管理にとって重要な梅雨降水の年々変動特性、関連する大規模大気循環場、そして西太平洋における大気海洋相互作用の役割を議論する。主な研究成果は、(1)黒潮域の大気海洋相互作用が10 年規模の梅雨前線活動に及ぼす影響を明らかにした点、(2)エルニーニョ/南方振動現象が梅雨前線の北進中にその活動度をいかに変質させるか、を解明した点、そして(3)梅雨前線活動に2-3 年周期、3-4 年周期、そして新たに6 年周期変動の卓越を見出し、各時空間変動特性を明らかにした点、の3 点である。
著者
安成 哲三 西森 基貴 水戸 哲司
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.517-531, 1998-08-25
被引用文献数
1

過去30年間(1964-93)の北半球における地表面と下部対流圏の気温変動を解析した結果、冬季と春季を中心に地表面のみならず、下部対流圏全体で顕著な昇温傾向が確認された。冬季には、中央シベリアとカナダ西北部・アラスカで昇温が顕著であるが、両地域における昇温の鉛直構造に大きな違いが見られた。春季には北米大陸北半部でのみ、下部対流圏全体にわたる昇温が顕著である。地表面から対流圏中部までの気温変動についての3次元回転EOF解析をした結果、地表面・対流圏全体で昇温するトレンドが最も卓越している変動であることが確認された。回転EOF解析の第2成分として、冬季には1976/77と1988/89頃に偏差が大きく変化する数10年スケールの長期変動が存在し、その空間特性は北米、北ヨーロッパおよびユーラシア東部で同じ変動傾向を示す波数3型の構造をしていることが示された。一方春季の第2成分は、10-13年周期の変動を示し、太陽活動の同じ周期帯の変動との関連が示唆された。
著者
松本 淳 遠藤 伸彦 林 泰一 加藤 内藏進 久保田 尚之 財城 真寿美 富田 智彦 川村 隆一 浅沼 順 安成 哲三 村田 文絵 増田 耕一
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

1950年代以前のアジアモンスーン諸国における紙媒体気象データをデジタル化したデータセットを作成し,20世紀全体でのアジアモンスーンと台風の活動や経路の長期変動を解析した。その結果,日本の冬季モンスーンが弱まり,冬の期間が短くなる傾向や,フィリピンで夏の雨季の開始時期が近年遅くなる傾向,東南アジアで降雨強度が強まる傾向,台風発生数の数十年周期変動,台風の低緯度地方での経路の長期的北上傾向等が見出された。
著者
植田 宏昭 安成 哲三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-12, 1998-02-25
被引用文献数
12

本研究ではベンガル湾及び南シナ海上の東南アジアモンスーン(SEAM)の開始のメカニズムを, チベット高原とその周囲の海洋との温度コントラストの視点から調べた。循環場の解析にはECMWFによる5日平均客観解析データ(1980-1989年), 対流活動の指標としてはGMSの5日平均等価黒体温度(TBB)データ(1980-1994年)を用いた。東南アジアモンスーンのいち早い開始は, 第28半旬(5月16-20日)に下層のモンスーン西風気流の加速を伴って見られ, その後6月の上旬に2回目のモンスーン強化が生じている。春から夏にかけてのチベット高原上では, 200-500 hPaの気層の温度上昇が約15日間隔で上昇している。特に5月中旬のチベット高原上の温度上昇は, SEAMの開始と一致している点が重要である。すなわちチベット高原とその周囲の海洋との温度差異は, 下層のモンスーン気流の加速と東方への拡大を引き起こし, 結果として南シナ海モンスーン(SCSM)を含むSEAMの急激な開始をもたらす。この関係は, (10゜-20゜N, 80゜-120゜E)での下層の風と200-500 hPaの層厚との年々変動の相関解析によっても確認された。中緯度への影響としては, SCSMの開始による低気圧性渦度と熱源により, 定常ロスビー波が南シナ海上で励起され, 更に北東方向に伝播している。この波の下流の日本付近は正の高度場偏差が現われ, 川村と田(1992)が示した5月中旬の日本の晴天の特異日と一致している。
著者
田中 博 木村 和央 安成 哲三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.909-921, 1996-12-25

本研究では、モデル大気の自然変動の大きさや周波数応答特性を解析するために、簡単な順圧プリミティブ方程式モデルを長期間(1000年)積分し、その時系列のスペクトル解析を行なった。年周期強制を除いた実験では、周期約50日以上の長周期変動のスペクトル分布は一様白色であり、年々変動や百年単位の顕著な長周期変動は検出されなかった。しかし、周期約50日の特徴的な季節内振動が時系列のうえで検出され、これ以下の周期帯では周波数の-3乗に従う明瞭なレッドノイズスペクトルに遷移することが解かった。季節内振動に伴うスペクトルピークは存在しないことから、レッドノイズが一様白色に遷移する周波数で見かけ上の季節内振動が卓越することを示した。モデル大気の唯一のエネルギー供給はパラメタライズされた傾圧不安定による周期約5日の周波数帯にあり、ここから低周波数帯に向かってエネルギーが逆カスケードを引き起こし、レッドノイズやホワイトノイズスペクトルを形成している。内部力学の非線形性が卓越する周期約50日以上の周波数帯のスペクトル分布はホワイトノイズとなり、一部の線形項が卓越し大気現象の時空間スケールに特徴的な線形関係が保たれる周波数帯ではそれがレッドノイズとなると考えられる。年周期強制を導入した実験では、ホワイトノイズ内部に生じる年周期スペクトルピークが、モデルの内部力学の非線形性によりその高調波(低調波)応答を引き起こすかどうかが調べられた。実験結果のスペクトル解析によると、励起されたスペクトルピークは年周期強制によるものだけで、高調波(低調波)応答は生じなかった。この結果から、季節内振動や年々変動がもし卓越するラインスペクトルを持つとすれば、それらば外部強制として励起される必要があり、モデルの内部力学の非線形性による年周期変動の高調波(低調波)応答では生じないことが示された。