- 著者
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関 陽平
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2017, 2017
1.研究背景<BR><br>天気予報などで耳にする最高気温の前日差は,暑い寒いといった相対的な感覚をわかりやすく理解する指標として広く知られている.前日差は体感温度に関係しており,寒暖差アレルギーや熱中症などの健康面への被害だけではなく,商品の売り上げ等に関連する経済的にも重要な指標である.<BR><br>どの地域,どの季節で前日差が大きいかを気候学的に理解しておくことは重要であるにも関わらず,前日差の地域性・季節性について詳細に検討した研究例は無い.よって,日本全国における気温の前日差の地域性・季節性を統計的に解析した結果を報告する.<BR><br>2.解析手法<BR><br>本研究では,前日差を前日と当日の日最高気温の差で評価する.使用するデータは全国のアメダスデータで得られる日最高気温のデータを用いる.解析期間は1986年から2015年までの30年分とする.海面水温再解析データはアメリカ海洋大気庁(NOAA)のOISST(Optimum Interpolation Sea Surface Temperature)データを使用した.<BR><br>前日差を気候学的に評価するために以下に示す手順で気温急低下指数と気温急上昇指数の二つの指数を定めた.前日差の30年分の各月毎の10パーセンタイル値を求める.その後,10パーセンタイル値以下の前日差の値を条件として標準偏差の計算を行ったものを気温急低下指数とした.同様に,90パーセンタイル値以上の前日差を条件としたものを,気温急上昇指数とする.これらの指数の値が大きいほど,気温の急変時の気温変化が大きいことを示す.<BR><br>3.結果<BR><br>気温急低下指数と気温急上昇指数の月ごとの気候値を求め,全国の地点で平均した.その結果,4月が気温の急変のピークを迎えることがわかった.11月にも第二ピークがあるが,気温急上昇指数は大きくないことが春との大きな違いである.<BR><br>次に,地域性を評価するために,各月の全国マップを作成した.シグナルが強かった地域は北海道東部,中部地方北部,三陸沿岸などが挙げられる.中でも北海道東部は突出している.それらのシグナルが強かった地域に着目すると中部地方北部では4月に,北海道東部では5月にピークを迎える.<BR><br>これらシグナルが強い地域性をもたらす原因を,地形,大気,そして海洋からの3つの視点から探った.地形的原因として,低気圧の通過に伴うフェーン現象が発生しやすい地形である.さらに低気圧の通過後には寒気移流が起こりやすいという大気的特徴を持つ地域である.<BR><br> 春の北海道東部や三陸沿岸で気温の急低下が大きくなる原因は,上記で述べた地形や大気的原因以外に,この季節の海面水温が挙げられる.オホーツク海のこの季節の海面水温は6℃程度であるのに対し,陸上の日最高気温の気候値は15℃にも達する.このように,この季節のこの地域は海陸の温度コントラストが際立って大きい.北海道周辺の海面水温と日最高気温の差は5月にピークを迎える.そのため,北風時には寒気移流による気温低下が著しい.この効果に加えて,地形と大気の原因が重なり,気温の前日差が他の地域を圧倒する地域となっていることが判明した.<BR><br>なお,この地域の海面水温が低い主因は冬季の海氷である.したがって,この地域の大きな気温前日差には,冬季の海氷が間接的に影響している.従って,これは時差を伴った大気海洋相互作用の一つともいえよう.<br>