著者
関口 博子
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.12-22, 2006 (Released:2017-08-08)
参考文献数
22

本稿は, 19世紀前期ドイツ語圏スイスの音楽教育・音楽文化において顕著なペスタロッチ主義による学校音楽教育の改革と合唱運動という2つの視点から, H. G. ネーゲリ (1773-1836) の音楽教育思想とその活動の歴史的意義を再評価することを課題とする。ネーゲリは, 従来の音楽教育史研究においてはもっぱらペスタロッチ主義の方法論者としてのみ評価されてきた。しかし彼は, それだけにとどまらず, 人間形成をその目的として学校音楽教育を出発点に, そこから民衆レベルの芸術運動まで展望し, ポリフォニーの合唱作品による人間としての「自立」と他者との「共立」という, スイスの近代民衆像を構想した。そして, そこまで一貫した理論を構築して実践し, さらにその実践を協会運動として構想・展開しており, それがネーゲリの音楽教育と合唱運動の近代性を際立たせている。つまりネーゲリの音楽教育の改革は, 広義の民衆文化の改革と創造の運動であったと言うことができる。