著者
関口 知弘 山田 功 坂庭 好一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. DSP, ディジタル信号処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.99, no.695, pp.19-24, 2000-03-16

非線形フィルタ、特に多項式フィルタの非線形システム同定問題・逆問題への応用が数多く報告されている。中でもボルテラフィルタは、高次統計量を利用して実現される"最小の2乗平均誤差(MSE)を達成する多項式フィルタ"として定義され、通信路の等化問題、エコーキャンセラ・音響システムの設計問題、画像処理問題等に頻出する上記問題群に極めて有効であることが知られている。しかしながら、多項式フィルタの演算量は次数に対して指数関数的に増加するため、単純な構造による近似構成が多項式フィルタの中心的な課題となっている。また、ガウス雑音の乗算が招く分散の増大はロバストな多項式フィルタの実現を本質的に困難にしている。小文では、まず、"低階数-ベクトル値-多項式フィルタ(RRPF : Reduced Rank vector valued Polynomial Filter)"を"最高次の係数行列(Dominant kernel)が低階数行列で与えられるベクトル値-多項式フィルタ"として定義する。次に、RRPFが"高次雑音の影響を低次元部分空間内に閉じ込めるロバスト性"と"演算量の大幅な削減"を同時に実現する理想的な構造を備えていることを明らかにしている。さらに、高次統計量が利用できる状況を想定し、"低階数ボルテラフィルタ(RRVF)"をあらゆる"低階数-ベクトル値-多項式フィルタ(RRPF)"の中で最小の2乗平均誤差を達成するものとして定義する。小文の主定理は、低階数ボルテラフィルタの(最適)係数行列が高次統計量から再帰的に決定されることを明らかにしており、RRVFの存在性を保証するとともに具体的な実現法を与えている。