- 著者
-
関場 亜利果
- 出版者
- 筑波学院大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2008
本研究は美術運動が産業デザインの発展と多様性に寄与した一つの様相を明らかにする事を目的とし,1960年代にイタリアで発祥した美術運動アルテ・プログランマータ(Arte Programmata)を研究対象とした。この美術運動は当時先進的な情報科学技術であった「プログラミング」を芸術へ応用することを試み,ブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari)とウンベルト・エーコ(Umberto Eco)が企画した展覧会がヨーロッパとアメリカ各地を巡回,美術史においてキネティック・アートと位置づけられている。2008年度にイタリアとドイツで現地調査を行い,イタリア人作家ブルーノ・ムナーリ,エンツォ-マーリ(Enzo Mari),ジェトゥリオ・アルヴィアー二(Getulio Alviani),グルッポT(Gruppo T),グルッポN(Gruppo N)について資料収集した。2009年度はこれら作家がグラフィック・デザインやプロダクト・デザイン的な作品も制作していく点に注目しその背景と要因について考察した。具体的には,この運動がデザイン文化に力を入れるオリヴェッティ社の支援で始まった事,制作過程で工業生産という手段に関わる事,多くの作家が当時急速に産業都市として発展したミラノに関わりがあった事,作品のコンセプトとして「オブジェ」「マルチプル」というキーワードを掲げ,思想的背景として旧来の芸術への批判精神から「共同研究」「共同制作」を行い,従来の芸術と異なる観客との関係を模索していた事,一人の享受者ではなく大衆へ開かれた作品を目指していたこと等である。また,こうした立場を国際舞台で他芸術家や研究者らと交流・議論し再確認した「新しい傾向」への参加が後の制作姿勢に影響を与える過程を調査した。本研究は,他国のキネティック・アートに見られない特徴,デザインへの展開の過程を考察し,美術史的視点のみにとどまらない文化的側面から再考察した点に意義が有る。