著者
関根 勇一
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

これまでに、アダプター分子Signal-transducing adaptor protein-2(STAP-2)がさまざまな細胞内シグナル伝達経路において機能的に働き、サイトカイン刺激による免疫細胞応答を調節する重要な分子であることを申請者は多数報告している。特にT細胞においてSTAP-2が重要な働きをしていることを数多く示してきた。本申請研究において、STAP-2によるT細胞の活性制御機構の更なる解明と、アポトーシスシグナル経路におけるSTAP-2の機能解析を行った。1.STAP-2によるアポトーシス促進メカニズムの解明これまでの研究では、Fas刺激時のCaspase活性がSTAP-2により亢進することを明らかにしており、本年度の研究によりアポトーシス促進メカニズムの解明を行った。STAP-2自身は酵素活性を持たないことから、Caspaseを活性化する分子とSTAP-2との複合体形成が一つのメカニズムとして考えられた。アポトーシスのイニシエーターであるCaspase-8は、刺激によるFasの活性化によりFADDというアダプター分子を介してレセプターへリクルートされ、DISCと呼ばれる複合体の中で活性化する。そこでSTAP-2がCaspaseの活性化を促進するメカニズムを解明するため、ヒト白血病T細胞株Jurkat細胞、STAP-2 KO T細胞、ヒト胎生腎癌細胞株293T細胞を用いて、免疫沈降実験などによりDISC形成分子とSTAP-2の相互作用解析等を行った。その結果、STAP-2はFasやCaspase-8と会合し、DISC形成を促進することを明らかにした。これよりSTAP-2によるアポトーシス促進は、DISC形成亢進によることが明らかになった。2.STAP-2限定分解酵素の同定これまでに申請者は、Jurkat細胞においてFas誘導性アポトーシス時に切断されたSTAP-2産物の分子量から、切断部位を推測しアミノ酸に変異を導入することで限定分解されないSTAP-2点変異体の作製に成功していた。この切断配列は、アポトーシス時に活性化するシステインプロテアーゼ、Caspaseファミリーによって認識される配列と相同性が高く、また、広範なCaspaseインヒビターとして知られるzVAD処理により、STAP-2の限定分解が抑制されることも予備実験により明らかにしていた。これら知見からCaspaseファミリー分子がSTAP-2の限定分解酵素であると考えられた。本年度の研究ではCaspaseファミリー特異的インヒビターを用いた解析、siRNAによるノックダウン実験によって、Caspase-8がSTAP-2切断酵素であることを同定した。今後は、STAP-2が切断されることとアポトーシス促進の関連性、及びSTAP-2切断阻害剤の作製によりアポトーシスへの影響を解析していく予定である。アポトーシス時におけるSTAP-2限定分解の詳細な解析が、STAP-2限定分解の調節による自己免疫疾患の治療薬開発の手がかりになることを期待する。
著者
関根 勇一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.130, no.6, pp.769-775, 2010 (Released:2010-06-01)
参考文献数
30
被引用文献数
1 2

Signal-transducing adaptor protein-2 (STAP-2) was recently identified as a novel adaptor protein and is a family of STAP adaptor protein and has a variety of functions in cellular signal transductions. Especially STAP-2 has a crucial role in immune systems by controlling cytokine signal transduction. STAP-2 functionally interacts with STAT3 through its YXXQ motif and enhances STAT3 transcriptional activation. In contrast, STAP-2 interacts with STAT5 through its PH and SH2-like domains and decreases STAT5 activity. Importantly, STAP-2 also binds to MyD88 and IKK-α/β and regulates LPS/TLR4 signaling. Moreover, STAP-2 interacts with Epstein-Barr virus-derived LMP1 and modulates LMP1-mediated NF-κB signaling. More importantly, experiments using STAP-2 deficient mice showed that STAP-2 modulated several T-cell functions. T-cells from STAP-2 deficient mice showed enhanced integrin-mediated cell adhesion to fibronectin. Furthermore STAP-2-deficient T-cells show reduced chemotaxis toward SDF-1α. These accumulated evidences indicate that novel adaptor protein STAP-2 plays an important modulator role in both of innate and adaptive immune systems.