著者
阪下 日登志
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.408-412, 2014 (Released:2016-06-21)

筆者は,学生時代に構造生物学を学び,製薬会社の研究員として長年初期創薬研究に携わってきた.その立場と視点で表題について紹介したい.本号は「使おう! 構造生物学」の特集とのことなので,特にハイスループットX線構造解析に重点を置く.構造生物学と創薬研究というと,多くの方がSBDDという言葉を連想するだろう.薬剤がタンパク質に結合している状態の立体構造を見て次の合成方針を考えるのは,教科書的で当たり前のように思うかもしれない.しかし,製薬企業内での研究スピードに合わせて構造情報を提示しながらテーマを進めるためには,構造解析に相当する速さが必要となる.以前は構造解析ができたころには化合物のステージが進んでおり,「後付け」と揶揄されたり意味がないといわれることがほとんどであった.筆者はこの流れを断ち切るため,速さと測定数の増加を両立させるハイスループット(HT)型のX線構造解析を目指した.速い構造解析とは,薬理評価と同等の速さ,つまり,化合物を得てから1週間程度で立体構造を提示する位の速さを実現することを示す.また,HTSヒットの解析や後ほど詳しく説明するfragment based drug discovery(FBDD)を可能とするためには,数多くのタンパク質/化合物複合体構造解析ができる必要がある.本稿では,当社のHT-X線構造解析の紹介と,これを利用したFBDDである「fragment evolution(FE)」を概説することによって,製薬企業内の初期創薬研究を解説する.