著者
阿南 弥寿美 江幡 柚衣 小椋 康光
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-195, 2016 (Released:2016-08-08)

セレン(Se)やテルル(Te)は硫黄と同じ第16族元素であり、類似した化学的性質を示す。生体必須元素であるSeは、化学形態によって生理活性や毒性が異なることが知られているが、非必須元素であるTeについて化学形態に着目した情報は少ない。最近我々の研究グループは、Se代謝能が高く様々なSe含有アミノ酸やその誘導体を産生するニンニクに無機Te化合物のテルル酸を曝露すると、Te含有アミノ酸を含む複数のTe代謝物が産生されることを報告した。本研究では、植物が産生するTe代謝物の動物への生体影響を評価するために、テルル酸を曝露したニンニクの葉をラットに投与し、Teの体内挙動および毒性を解析した。 雄性Wistar系ラットにテルル酸を曝露したニンニクの葉懸濁液(garlic Te群)、比較としてテルル酸(tellurate群)を0.1 mg Te/kg体重/日となるよう7日間経口投与した。対照群には精製水を投与した。7日間の尿と、解剖して得られた臓器および血中のTe濃度をICP-MSで分析した。また、ALT, AST, BUNなど10項目の生化学パラメータを測定した。 Te濃度測定の結果、Teを投与した両群のラットにおいて腎臓で最も高く、摂取した化学形態に依らずTeは腎臓に集積しやすいことが示唆された。Garlic Te群とtellurate 群を比較すると、臓器および血液中のTe濃度はgarlic Te群で2倍以上の高値を示し、特に全血では約10倍と顕著であった。一方、尿中Te排泄量はtellrurate群で有意に多かった。血清中の生化学パラメータ測定の結果、Teを投与した両群において、いずれのパラメータも対照群との間に有意な差は見られなかった。以上より、植物Te代謝物は赤血球に取り込まれることにより生体内に保持されやすいと示唆され、従って、長期的な摂取による毒性影響発現の可能性が懸念される。