- 著者
-
井上 稔
阿座上 孝
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 重点領域研究
- 巻号頁・発行日
- 1990
マイクロ波の熱作用と放射線が複合して作用した場合,単独被曝とは異なった生体影響が現れる可能性がある.本年は,マウスにマイクロ波を照射するためのアプリケ-タを設計・製作し,マウスのSAR(比吸収率)を測定した.この装置では実験者が漏洩電波に被曝する恐れは無い.50匹のSlc:ICRマウスに,マイクロ波に影響を受けないファイバ-センサ温度計をもちいてリアル・タイムで直腸温測定をしながら,体温が42.5℃になるまでマイクロ波照射を行った.体温の上昇直線とマウスの体重,比重,頭臀長,腹囲の測定値よりSAR(比吸収率)を計算した.マウス胎仔の大脳が最も高い障害感受性を示す妊娠13日の母獣に2.45GHz,0.5W(非妊娠マウスを用いて計算したSAR:134W/kg)のマイクロ波照射を3分間行い,胎仔の脳に及ぼす急性影響を検索した.この時,直腸温は42.3±1.3℃に達した.マイクロ波処理1ー12時間後に母獣を殺して胎仔の脳を採取し,一部71kdの熱ショック蛋白の検索に用い,他は組織切片にした.大脳外套脳室帯の細胞死の頻度を調べたところ,対照群の0.14%に対して照射5時間後には1.0%の増加し,生体影響が検出された.熱ショック蛋白hsp70は検出されなかった.つぎに複合被曝の実験として,マイクロ波被曝1ー12時間後にさらに0.24Gyのγ線照射を行い,γ線被曝8時間後に同様に胎仔を採取し,大脳の細胞死頻度を観察した.マイクロ波被曝1ー9時間後のγ線被曝では,γ線単独被曝による細胞死8.3%と比べ有意な差はなかったが,12時間後のγ線被曝では6.8%(p<0.05)と,わずかながら低抗性がみられた.