著者
佐々木 陽一 LAMPRECHT G. SYKES A.G. 馬越 啓介 市村 彰男 永澤 明 SYKES A.Geoffrey SAYSELL Dabi 阿部 正明 今村 平 LAMPRECHT Ge MCFARLANE Wi A.GEOFFREY S
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は,レニウム錯体について,酸化状態の違いと配位子置換反応性の関連および金属間の相互作用と酸化還元反応性の関連を明らかにすることである。レニウムは周期表の中でも最も多くの酸化状態をとる元素であり,これらの反応性を調べるのに適している。本研究は,日本側で研究に適した新レニウム錯体の合成,英国のSykes教授の研究室でそれらの反応性の速度論的研究という大まかな役割分担で行なった。また,2年間に英国よりSaysell博士,南アフリカよりBotha博士がそれぞれ3ケ月間北海道大学を訪問,精力的に研究を行ない理想的な共同研究成果をあげた。Re(V)錯体のキレート環形成過程を,N,N,N,O型の4座キレート配位子およびN,N,O型の3座キレート配位子を用いて調べた。Re中心へのキレート環形成過程を,中間過程の化学種を単離,構造決定することにより明かに出来た。これにより高酸化数に伴うオキソ基の配位が多座配位子のキレート環形成過程に及ぼす効果を視覚的に明かに出来た。これは,置換活性な金属イオンでは不可能な成果であり,レニウム錯体以外にも広く適用できる重要な知見である。レニウム(III)六核錯体の特異な反応性が明かとなった。硫黄架橋レニウム(III)六核骨格,Re_6S_8は最近機能性物質や,生体内鉄硫黄クラスター骨格の基礎的な構造モデルとして,注目されつつあるものであるが,その基礎的な反応性はほとんど調べられていなかった。主にRe-Re間に多重結合をもつ複核錯体を新たに合成し,その構造や酸化還元反応性を明らかにした。本研究では,この化合物を,レニウム金属間結合を持つ典型的な化合物と捉え,配位子置換反応性と酸化還元反応性を調べた。その結果,異常に置換不活性であることと,これまでの見解に反し,酸化還元活性であることとが明かとなった。Re複核錯体ではその酸化数が,(III,IV)および(IV,IV)の二つの状態の錯体の構造解析により,両者のRe-Re距離の比較から,金属間結合に関わる結合軌道の性質を初めて明かにした。