著者
征矢 英昭 岡本 正洋 征矢 茉莉子 島 孟留 陸 彰洙
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.59-63, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
21

慢性的なストレスにより発症するうつ病は気分障害だけでなく認知機能の低下がみられる。慢性的なストレスは成体海馬神経新生(AHN)に抑制的に働くが,この現象はうつ病患者でも確認されることから,うつ病患者における認知機能低下の背景には AHN に関連した海馬機能低下が一つの要因として考えられる。近年,うつ病の治療方法として抗うつ薬のほかに,習慣的な軽い運動もうつ病に対して有効であることが想定されている。近年,乳酸性作業閾値(LT)以下の習慣的な低強度運動はAHN を促進し,さらに AHN 促進因子である脳由来神経栄養因子(BDNF)やアンドロゲンを海馬で増加させることが明らかとなった。さらに低強度運動が高強度運動に比べ AHN を促進させる背景には,これまで想定されていた因子のほかに,新たに同定された遺伝子として,脂質代謝にかかわる APOE,タンパク質合成にかかわるインスリン様成長因子Ⅱ(IGF-2),インスリン受容体基質 1(IRS1)や炎症性サイトカインである IL1B や腫瘍壊死因子(TNF)が AHN に関与することが明らかとなった。低強度運動にはこれらの AHN 促進因子を高める効果があり,うつ病患者の海馬神経を活性化させることで海馬神経可塑性を高めることが期待できる。低強度運動は抗うつ薬と同様に,うつ病の新たな治療法となるかもしれない。