著者
難波 康祐
出版者
徳島大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々は、2'-デオキシムギネ酸 (DMA) を肥料としてイネの水耕培地に添加すると、本来アルカリ性培地では生育できない通常のイネが、アルカリ性条件下においても良く生育できることを明らかにした。このため、DMAを肥料として安価かつ大量に供給することが可能となれば、世界のアルカリ性不良土壌での農耕が実現可能と期待できる。しかしながら、DMAの大量合成法の確立に未だ検討の余地を残していることや、DMA添加による成長促進機構は未だ不明であった。そこで我々は、DMAの大量供給法の開発およびDMA添加による成長促進機構の解明に取り組み、今年度までに以下に示す成果を得た。1. 高価な出発原料の大量供給法の確立:DMAの合成において、出発原料となる2-アゼチジン-L-カルボン酸が非常に高価であることが大量合成に向けた最大の問題となっていた。そこで、触媒的不斉クロル化反応を鍵とするL-アゼチジン-2-カルボン酸の大量合成法を確立した。2. 植物組織内でのムギネ酸の挙動追跡を可能とする新規蛍光分子の開発:これまでに、独自に開発した蛍光分子1,3a,6a-トリアザペンタレンを基盤として、黄色蛍光や赤色蛍光を発するコンパクトな蛍光分子の開発に成功した。3. 植物成長促進機構の解明:放射性同位体鉄を用いた鉄イオンの追跡実験およびqRT-PCRやマイクロアレイを用いた遺伝子解析実験を行った。その結果、DMAは単に鉄イオンの取り込みを補助するのみならず、鉄イオンの体内組織への運搬や窒素固定の促進など、成長に関わる様々な機構を活性化させることを明らかにした。4. ムギネ酸阻害剤の開発:ムギネ酸・鉄錯体トランスポーターの3次元構造の解明に向けて、トランスポーター阻害剤の開発に成功した。現在、阻害剤を用いた膜タンパク質との共結晶化を検討中である。