著者
青木 芳朗
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.121-131, 1999-03-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
13

原子力発電所の事故では,放射線障害を引き起こすような人身事故の発生はきわめて稀である。むしろ,放射線発生装置の取り扱い不注意による人身事故が多発している。わが国でも,非破壊検査用のイリジウム線源による被曝事故,X線解析装置の取り扱いミスによる放射線熱傷等が報告されている。外部被曝患者を治療する際には,術者は特別な注意を必要としない。しかし,放射性物質による汚染患者の取り扱いには,術者が二次汚染しないように十分な注意が必要である。汚染患者を治療するときには,(1)鉛エプロンなどで遮蔽,(2)ピンセットなどを用いて距離を確保する,(3)治療時間を短くする,(4)素手で患部を触れない,などの放射線防護の基本を守ることが必要である。放射線による骨髄障害は,成分輸血,rhG-CSFなどのサイトカインやOK-432,アンサーなどの放射線防護剤によって治療可能である。しかし,消化管障害や中枢神経障害には治療法がなく,対症療法にならざるを得ない。放射性物質による内部汚染患者の治療には,汚染した核種を体内より除去するキレート剤(239Puに対してはDTPA, 137Csに対してはプルシアンブルー,131Iに対してはヨウ素剤など)が用いられる。生命が危険な状態の放射能汚染患者の治療では,救命措置が優先され,除染はバイタルサインが安定してから行っても遅くはない。
著者
荻生 俊昭 セケルバイエフ アレキサンドル 青木 芳朗 小林 定喜 久住 静代 稲葉 次郎 ベレジーナ マリーナ ケンジーナ グルマーラ ルカシェンコ セルゲィ ベレジン セルゲィ ジョタバエフ ジェニス
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.266, 2008

セミパラチンスク旧核実験場では、1949年~1989年に約450回の核実験が行われ、周辺住民は1962年までの約120回の大気圏内核実験により複数回の低線量放射線の外部と内部からの複合被ばくをした。協会では2001年以来、カザフスタンの放射線影響調査防護センター、国立原子力センター等の協力を得てこれらの住民の疫学調査を行ってきた。調査では放射能雲の通過した地域の住民(被ばく調査集団)と対照地域の住民(対照調査集団)について、公文書保管所や住民登録所等での書類調査、住民の聴取り調査等でデータを収集している。2008年7月末時点での調査対象者は約117,300人で、被ばく調査集団46,400人が含まれる。この集団で居住歴判明により線量計算が可能な者は約18,200人、うち生死判明者は約14,800人(生存者:7,000人、死亡者:7,800人)であった。対照調査集団は設定後の日が浅いので今回の解析には用いなかった。死因としては循環器系疾患が全死因の42%で、虚血性心疾患、脳血管疾患が多かった。新生物は全死因の21%で、食道、胃の悪性新生物が多かった。ロシア連邦保健省の計算式により被ばく線量を計算し、被ばく線量と死因(ICD-10分類)に基づいて被ばく集団の内部比較でリスク比を計算した。男性では新生物も循環器系疾患も線量に応じた有意な増加はなかった。女性では高線量群で新生物による死亡リスクは有意に増加した。性別、年齢、被ばく線量、民族に関するロジスティック解析では、循環器系疾患のリスクはいずれでも有意の差が見られたが、新生物では性別、年齢、民族でのみ差が見られた。本調査はまだ調査開始後の期間が短いことから、今後、対象者を増やすとともに、各種指標の信頼性・妥当性、交絡因子やバイアスの検証が必要である。(この調査は平成19年度エネルギー対策特別会計委託事業「原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査」の一部である)。