- 著者
-
須永 大智
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.105, pp.93-114, 2019-11-30 (Released:2021-07-10)
- 参考文献数
- 24
本稿の目的は,個人の意思決定過程に焦点を当て,なぜ非大卒層内部に子どもに対する教育アスピレーションの高い親と低い親がいるのかを明らかにすることにある。近年の国内の先行研究では,教育機会の不平等が生じる過程において,親の教育アスピレーションが,進路選択に対する出身階層の効果(2次効果)をほとんど媒介していること,親の教育アスピレーションに対する出身階層の効果のうち,学歴の効果は直接的かつ相対的に大きな効果であることが指摘されてきた。しかし,多くの場合,学歴間の差異に焦点が当たり,非大卒層内部に親の教育アスピレーションの加熱/冷却がみられることは検討されてこなかった。そこで,非大卒親内部では自分の低い学歴に対して不満をもっているほど,子どもに大学進学を望むという仮説を立て,高校生以下の子どもをもつ日本の親を対象に検証を行った。 分析の結果,(1)大卒親内部では自分の学歴に不満をもつかどうかにかかわらず,高い確率で子どもに大学進学を望むこと,(2)非大卒親内部では自分の学歴に不満をもつほど,子どもに大学進学を望むことが明らかとなった。さらに(3)自分の学歴に不満をもつ非大卒親は,大卒親と同程度の確率で子どもに進学を望んでいることが示された。以上の結果から,非大卒親内部に教育アスピレーションを大卒親と同程度まで加熱させる,「学歴不満による限定的加熱」メカニズムが作動していることが示された。