著者
飯塚 有紀
出版者
Japan Society of Developmental Psychology
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.263-272, 2013

本研究は,低出生体重等の理由で子どもが保育器に入ることによって母子分離を経験した8名の母親の心理・情緒的経験,葛藤を丁寧に描くことを目的とした。語られたインタビューの内容については,現象学的分析を用いて検討した。その結果,NICUへの入院を経験した低出生体重児の母親は,妊娠・分娩・出産のトラウマティックな傷つき体験と早産に関する自責の念を背景としながら,最初期の母子関係の構築を始めることが明らかとなった。保育器に子どもが入ることになり母子分離が起こると,子どもとの間に心理的な距離が発生し,母子関係構築のための貴重な時期に危機的状態が発生することが確認された。しかし,自由に抱っこができる状況,すなわち母子再統合がなされるとこの母子間の心理的な距離は一気に解消される。母子再統合によって,母親は,母親としての実感を抱くようになった。一時的な母子分離は,抱っこやそれに付随する授乳などによって容易に克服できる可能性が示された。しかし,妊娠・分娩・出産に伴うトラウマティックな傷つき体験と自責の念は,ことあるごとに繰り返しよみがえってくるようであった。カンガルーケア等の母子関係構築の初期における母子の接触を積極的に行うことが必要であろうし,また,このような母親の心性を医療スタッフが理解しておくことも重要である。
著者
飯塚 有紀
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.278-288, 2009-09-10

本研究は,低出生体重児が保育器に収容されることによって母と分離され,保育器を出ることによって再統合された20組の母子について,特に「抱き」と「子どもの動き」に注目して観察を行った。その結果,まず「抱き」の種類の変化について検討するため,再統合直後(以下「前期」)と退院直前(以下「後期」)を比較したところ,前期では「横抱き」の出現数が最も高く,後期では「対面抱き」が最も高かった。これは,「横抱き」に「対面抱き」が追加されるという「抱き」の種類の増加の過程であった。また,「子どもの動き」の出現数を検討したところ,後期の出現数は,前期のそれに比して有意に増加した。このことから,母親が「対面抱き」を「抱き」の種類に加える過程と「子どもの動き」の増加との間には密接な関係が予想されたため,この関係について検討すべく「抱き」の前後に起こるイベントを考察したところ,「対面抱き」にはより遊び的な機能,「横抱き」ではあやしやなだめといった機能のように,その機能に違いがあることが明らかとなった。