著者
飯田 操
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、イングリッシュネスすなわちイングランド覇権を容認したブリテン体制を基盤にして帝国をめざしたイギリスの国家形成において、自国意識を醸成するために大きな役割を果たした国家表象の諸相について論述したものである。序章においてはブリテン体制の実態はイングランドを中心においたイングリッシュネスの構想に他ならないことを考察した。第1章においては貨幣の意匠における国家表象の役割について考察した。第2章においては風刺画に現れるブリタニア像のさまざまな様態を概観し、それらが自国意識の醸成に果たした役割を考察した。第3章においては第二の国歌とも言われる「ルール・ブリタニア」の起源について考察し、隷属を恐れ、自由を希求する願望の歌が、帝国としての発展とともに支配的で好戦的な歌に変貌することを論述した。第4章においては文明化の使命を具体化したとも言える大英博物館の創設の目的とその展示物に次第に膨張する自国意識が見られることを、特にパルテノン・マーブルの問題に焦点をあてて論じた。第5章においては1851年にロンドンで開催された万国博覧会もまた、産業国家としての発展を誇示し、自国意識を醸成する一つの国家表象であったことを論述した。第6章においては、『パンチ』に頻出するブリタニア像が自国意識を高揚させるためだけではなく、社会矛盾を批判するものとしても存在することを分析し、その国家表象としての意味について論述した。このように国家表象をさまざまな側面から分析することにより、帝国形成期のイングリッシュネスの本質に追ることができたものと考える。今後の課題は、個別的に論じたこれらのテーマを有機的に結びつけ、よりダイナミックに論じることである。また、帝国形成に果たした国家表象の意味を、西洋の列強にならって近代化をはかった当時の日本における国家表象の実態との関連でより詳しく論じることが残されている。