著者
片渕 悦久 鴨川 啓信 橋本 安央 飯田 未希 小久保 潤子 武田 雅史
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究課題は、さまざまなメディアやジャンルを横断しながら物語が作り直されていく過程を検証するため具体的翻案作品を収集し分析を行った。とりわけ物語が別のメディアに変換される、あるいは同一メディアでリメイクされるケースを派生的かつ独創的な創造行為であると考え、各メディアやジャンルに対応した物語変換の原理や法則性を扱うアダプテーション理論の発展可能性を検討した。さらにそこから、主流文化からサブカルチャーまでを射程に収めた「物語更新理論」の構築をめざし、理論モデルを提案し、その体系化と具体的分析方法論を確立した。
著者
飯田 未希
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.21-38, 2018-10-20 (Released:2019-11-01)
参考文献数
33

明治末から大正にかけて、髪結女性たちが結髪イベントに出演したり、新聞や雑誌で流行の髪形紹介を行うようになり、髪結たちの女性客に対する人気の高さが社会的に可視化された。本稿では、東京を中心に活躍した髪結たちの活動を跡付けることで、この髪結人気を啓蒙的家庭観への女性たちからの「応答」として読み取ることができることを示したい。明治末に可視化された髪結人気が注目に値するのは、明治期を通じて女子教育に関心のある啓蒙知識人が髪結たちを批判し続けたからである。これは髪結が女性客の家を訪問して髪を結う「出髪」という業態に由来すると考えられる。啓蒙知識人は「家庭」に入り込む髪結の女性客への影響力を問題視し、髪結を「主婦」に花柳界的な悪影響を及ぼす家庭の「他者」、すなわち排除されるべき存在として位置づけた。髪結イベントに中上流層の女性が集まったということは、この髪結に対する啓蒙的批判に同意しなかった女性たちがいたことを示している。本稿では、これらの女性たちが髪結をどう見ていたのかを探るため、この時期に髪結について女性たちが書き残したものを分析する。それらにおいて、彼女たちは髪結との距離を「敬意と親密さ」として分節しており、知識人男性が髪結を常に見下していた(すなわち「下」として分節する)のとは、距離感の分節の仕方が明らかに異なっている。女性たちは、啓蒙知識人の髪結観をそのまま受容したわけではなかった。イベントでの髪結人気が可視化されることにより、彼女たちは多くのスポンサー(小間物商、化粧品会社など)が関わるイベントに出演するようになり、婦人雑誌や新聞などの商業メディアで流行の髪形紹介を行うようになる。商業化が強まる明治後期以降の社会的変化の中で、女性と髪結との関係は、商業的に領有されたのだろうか。本稿では彼女たちの関係は単に領有されただけではなかったことを最後に示したい。