著者
阿部 瑛紀子 奥田 和之 笠井 香里 小川 将史 東 良子 香田 祐樹 角坂 芳彦 蔦 幸治
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.726-730, 2017-11-25 (Released:2017-11-30)
参考文献数
13

症例は53歳の男性。入院3日前より微熱,右側胸部痛があり近医を受診し様子を見ていた。入院当日の朝より四肢の冷感と関節痛の症状が現れ,近医を再度受診したが,全身チアノーゼと橈骨動脈触知微弱でショック状態と判断され,当院に救急搬送となった。入院時所見は全身チアノーゼが顕著,胸部CTで肺炎像があり尿中肺炎球菌抗原が陽性であった。肺炎球菌性肺炎とそれに合併する急性感染性電撃性紫斑病と診断され治療が開始された。早期の診断と適切な治療により,敗血症,播種性血管内凝固症候群からは救命し得た。しかし,紫斑は徐々に悪化傾向を辿り,四肢末端優位に水疱形成,表皮剥離,乾性壊死へと進行し,数回にわたって壊死組織のデブリードマンが施行されたが,進行する壊死を阻止することができず,最終的に左上肢以外の三肢の切断となった。肺炎球菌性肺炎に合併する電撃性紫斑病は主に脾摘などの免疫障害をもつ患者で多く,その死亡率も高い。今回健常人に発症し,また救命し得た稀な症例を経験した。脾摘などの免疫不全がない場合でも肺炎球菌による重症感染症を発症する可能性があることを念頭におき,臨床側との密接なやりとりが必要であると考えさせられた症例であった。