著者
馬場 義裕
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.5, pp.202-206, 2011 (Released:2011-05-10)
参考文献数
16

カルシウムイオン(Ca2+)は細胞内シグナル伝達における主要なセカンドメッセンジャーであり,様々な免疫細胞の生理機能に重要な役割を果たす.細胞質内Ca2+濃度は厳密に制御され低濃度に維持されているが,外来抗原刺激により細胞質内Ca2+濃度の上昇が引き起こされる.このCa2+レベルの上昇は主に2つの経路から供給され,1つは細胞内Ca2+貯蔵庫である小胞体からの放出,もう1つは,細胞外からのCa2+流入である.免疫細胞の場合,Ca2+流入は小胞体ストアのCa2+レベルの減弱が引き金となって誘導されるストア作動性カルシウム流入(store-operated calcium entry: SOCE)機構によってなされる.SOCEの活性化メカニズムは長らく謎であったが,近年の小胞体Ca2+センサーSTIM1およびCa2+チャネルOrai1の同定により,SOCEの分子基盤ならびに生理機能に関する研究は飛躍的に進展した.STIM1は小胞体内Ca2+減少を感知すると,小胞体と細胞膜の近接領域でクラスターを形成し,Orai1を活性化することによりSOCEを発動させる.筆者らはSOCEの肥満細胞における生理的役割を明らかにするために,STIM1欠損マウスを樹立し,肥満細胞の機能を検証した.その結果,STIM1欠損肥満細胞は抗原刺激によるSOCEの障害がみられ,これに起因する脱顆粒ならびにサイトカイン産生の抑制が認められた.さらに個体レベルでのアナフィラキシー反応もSTIM1依存的であることが明らかになった.さらに,筆者らはB細胞特異的STIM1/STIM2欠損マウスを作製し,未だ不明であったB細胞のカルシウム流入の生理的意義の解明にアプローチした.本稿では,我々が明らかにしたSOCE活性化メカニズムと肥満細胞およびB細胞における生理的役割に関する知見を紹介する.