著者
岩波 宏 守谷 友紀 花田 俊男 阪本 大輔 馬場 隆士
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.79-85, 2021 (Released:2021-03-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1

NAC水和剤による摘果効果は年次間差が大きい.そこで,樹体の状態と気象条件から効果に影響を及ぼす要因を抽出し,その要因を用いて,摘果効果(落果率)を予測するモデルを作成するとともに,そのモデルから,年次変動の原因およびその程度を推定した.NAC水和剤処理による‘ふじ’の落下する果実の肥大停止時期は,NAC水和剤を早くに処理しても遅くに処理しても,無処理樹で生理落果する果実が肥大停止する時期と同じ時期であった.NAC水和剤処理による落果率は,処理時の果そう内平均着果数,平均果そう葉数,処理後3日間の平均最高気温,満開後3~4週の平均日射量の4つの要因で概ね推定できた.果そう内着果数と果そう葉数は果そうの栄養状態を表し,果そう内の着果数が多く,果そう葉数が少ないリンゴ樹の果実は落下しやすかった.気象要因である処理後の気温と日射量については,日射量の方が落果率に及ぼす影響は大きく,年次による落果率の違いは,満開後3~4週の平均日射量の年次による違いが主な原因であった.近年はこの時期の日射量が高いため,NAC水和剤の摘果効果が不十分な年が多く,NAC水和剤単独処理では省力化の期待できる落果率80%を安定して達成するのは困難であると推定された.